なべ

ストレンジャー・ザン・パラダイスのなべのレビュー・感想・評価

4.2
 初めて観た時の衝撃は今も覚えている。ストーリーはあるにはあるが、ドラマティックな山場はなく、ワンシーンワンカットで撮られたモノクロのエピソードがぶつ切りな感じでダラダラと綴られていくスタイル。悪くいえば映像系の卒業制作みたいなタイプの作品。
 だけどこれが、イチイチ構図が決まってて、ファッショナブルではないのにスタイリッシュ。音楽もイケてて、オフビートな会話がやけに心地いい。ちょっとビートニクな雰囲気もあり、ハリウッド的洗練さに慣れた目にはとても新鮮に映ったものだ。
 ちょうどバブルに差しかかる頃で、何か他とは違う新しい感性がもてはやされる時代だったこともあり、ストレンジャー・ザン・パラダイスはサブカル好きの間で大いに歓迎されたのだ。
 ジム・ジャームッシュのメジャーデビュー作品なんだが、若い新人監督が背伸びしだ感じはなくて、もっと自然で、自由につくってる感じが天才っぽい。なんてことない日常の機微を気負わず描いてるところが小津安二郎を思わせて(競走馬のネーミングが!)、これを褒めることで映画ファンとしての格がワンランク上がるような、そういうムードもあったと思う。
 いや、騒いでたうちの半分くらいはわかってなかったんじゃないかなあ。だっていいね!最高だね!って言ってる奴に限って、具体的にどこがいいとか全然言わないんだもん。そう、鮮烈だった割に褒めるのが難しい映画だったのよ。
 もちろんぼくは感想を聞かれたらちゃんと答えてたよ。
 例えば「これは全編すれ違いの薄いコメディなのよ」とか「ウィリーとエヴァのほのかな恋心に気づいてる? あからさまに描いてないからわかりにくいけど」とか「ニューヨーク、クリーブランド、フロリダと移動しながら、そうだとわかる風景を一切出さない感性が特異だよね」とか「雑に見えるかもしれないけど、結構計算されてるよ」なんて、ちょっとイタイ映画オタクみたいなことをドヤ顔で言ってたんだけど、バブル期の映画ファンはまあだいたいこんな感じだったのよ。ぼくもまだ20代前半だったし。はっずー!
 改めて観返してみると、アメリカの異邦人感がよく出てるなあと当時は気づいてなかったものを感じる。スティングのイングリッシュマン・イン・ニューヨークみたいな都会の洗練された孤独じゃなくて、もっとざらっとした滑稽な感じの孤独。ていうか他の作品もそうだよね。いつも異邦人を描いてたよね。あれ、もっかいダウン・バイ・ロウやナイト・オン・ザ・プラネットなんかを見直さなきゃ。

 今の若い人にこの映画はどれくらい受け入れられるんだろう。若い感性なら軽々と許容できるのかな。おじん・おばんだけがこの良さをわかるなんてのはちょっと嫌だなあ。
なべ

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