KKMX

雲の上のKKMXのレビュー・感想・評価

雲の上(2003年製作の映画)
4.2
空族のデビュー作。8ミリで撮影されたため、古く見えますが公開は2003年だそうです。

地方都市の閉塞感は『サウダーヂ』や『国道20号線』と同じながらも、時代の濁流に飲まれる感じは直接的には描かれていないように思いました。よりパーソナル(?)な作品のような印象です。まさに空族のアーリーイヤーズ。
主人公の名前『チケン』は、新作『典座』においても主人公が同名であるため、富田克也の旧友にモデルになった人物がいそうな雰囲気でした。

服役していた寺の息子・チケンは仮釈放で地元(たぶん甲府)に戻ってきた。幼馴染のシラスはヤクザになったがしたっぱで、しょっぱく生きている。
シラスは覚醒剤の取引のため、チケンの車で東京に向かう…といったプロットです。
まぁ、物語はあってないようなものでした。しかし、本作に通底している窒息しそうなどん詰まり感はまさに空族のルーツですね。物語って伝えるのではなく、感じているリアルをシーンとして積み重ねていき、それが物語となっていく空族のスタイルはこの頃から完成されたいたのだな、としみじみ実感しました。
夜の駐車場でチケンとシラスが自販機の前で語り合うシーンは、あまりにも自分にとってノスタルジック。チケンが地元に帰ってきて仲間と団地の前で酒を飲むシーンや、バイク屋のシーンなど、前半は個人的に絵面だけで胸に迫るシーンが積み重なってました。

一転して後半はチケンと風俗嬢エリコがシャブをキメまくるというドラッギーな展開に。現実から離れ、様々なイメージが氾濫します。チケンの寺に伝わる赤い龍の伝説。蛇を殺して昇天する赤い龍神。エリコの部屋もエリコの襦袢も赤。まるでベルイマンの『叫びとささやき』です。
まぁ、正直そんなことはどうでもよく、部屋に引きこもってヤクをやり続ける映像はマジでキツいですね。シドナンの絶望感に近いものを感じました。しかし、その絶望感こそが空族であります。絶望からスタートしたから、『サウダーヂ』『バンコクナイツ』に行き着けたわけです。


本作が描いている若くして未来が閉ざされる感覚はまさに自分が体験していたもの。そして、絶望の正体が時代の濁流であったり(国道20号線、サウダーヂ)、個を超えるより大いなる存在の肯定(バンコクナイツ、典座)という流れも俺自身が体験してきたものです。空族映画は今のところすべて俺の映画と感じるほどシンクロしてますが、それは俺の人生の軌道と空族作品の発展の軌道が一致しているからなんでしょうね。監督の富田克也がおそらくヤンキー出身なので、ヤンキーの街で生まれ育った自分にとって(俺はヤンキーではなかったよ)、空族作品は本当に体臭が近い。あの唐突な薬師丸ひろ子の曲もヤンキーコミュニティのセンスっぽいんだよね。

しかし140分は飽きます。空族にしては珍しく冗長でした。この頃はまだ長尺をガツンと観せるテクはなかったのかも。なので星も空族作品にしちゃ低めです。
KKMX

KKMX