彦次郎

仁義の墓場の彦次郎のレビュー・感想・評価

仁義の墓場(1975年製作の映画)
3.8
「俺が死ぬ時は カラスだけが泣く!」という強烈なキャッチコピーにもあるような周囲に災厄を与え続けたヤクザ石川力夫の半生を描いた実録モノ(フィクションも多い)。監督は『仁義なき戦い』の深作欣二。主演は渡哲也でやたら銃をぶっ放していますが本作の4年後に同じようなグラサン姿で『西部警察』にて大門軍団を率いてドンパチしていると思うと感慨深いです。
冒頭から取材時のインタビュー音声が収録されていて「勉強ができて頭が良かった」と意外なコメントもあり面白い演出でリアルさを感じました。リアルと言えば実際に愚連隊(実質ヤクザ)の親分をやっていた安藤昇も野津組長として出演しております。
主役の石川力夫ですが「誰に断ってバイやってるんだ」といきなり昼間の道端で銃を乱射する危険人物。当初は一応組のためとか殊勝なところもあるのに、親分に刃をつきたて恩人をもブチ殺す凶行で更に危険人物として上乗せされていくのは現実にいたとは思えないヤバさです。ヤクザ世界のみならず事件のどさくさで女を強姦して妻にしたり、立てこもって銃を乱射しまくったりと全方位に不幸を与える疫病神です。ヤク中になる前からだいぶ狂っているのでどの辺りがターニングポイントなのか不明なのが却って怖いです。自分が刺した親分のところに出向き遺骨をかじりながら「俺もそろそろ一家構えたいんで土地とゼニくれませんか」と睨む眼光は渡哲也氏迫真の演技(体調が悪くて点滴しながら撮影していた)もあり周囲のみならず観客も唖然としたことと推察されます。
勝手な妄想ですが現実にいた石川力夫という人物は案外愛嬌というか可愛い面があったのではないでしょうか。薄幸すぎる地恵子との異常な恋愛でも「寒い」と打ち震えて何のためらいもなく「弱さ」も見せているあたりがそれを示しているように思えます。結局今井もあれだけ迷惑をかけられているのに匿ってくれているし、親分も所払い10年にしたり面会を許しているしで普通なら弱みでも握っていないとあり得なさそうです。
自分の墓に敢えて「仁義」と入れたり辞世の句が「大笑い 三十年の 馬鹿騒ぎ」だったりと案外冷静に自己分析できていたのでは…。ともかく滅茶苦茶ですが忘れ難い人物であることは間違いないでしょう。
あともう1人忘れていけないのが田中邦衛演じるヤク中小崎。髭面に焦点が合ってなさそうな目つきで銃を乱射するという石川の相棒に相応しい狂人ぶりでした。本編では刑務所収容後に出番がなかったのが残念。
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