アニマル泉

自由への闘いのアニマル泉のレビュー・感想・評価

自由への闘い(1943年製作の映画)
5.0
ルノワールが渡米してRKOに売り込んで撮った骨太の反ナチス映画。脚本のダドリー・ニコルズと共同制作。公開当時フランスでの評価が低かったようだが、円熟期のルノワールの充実した作品である。冒頭、次々とナチスが集結して街をあっという間に占拠してしまうのが圧巻だ。上野昂志が指摘してるように無人の通りに飛び出した子供を慌てて母親が家に連れ戻す「静」からナチスの行軍の「動」へ一気に切り替わるリズムが鮮やかだ。チャールズ・ロートンとモーリン・オハラが隣家同士で同僚教師という設定がいい。腕白な子供たちの活き活きとした演出はさすがだ。防空壕の合唱に感服した。オハラとジョージ・サンダースのラブシーンの2アップの切返しが美しい。見事だ!「メロドラマはこう撮れ」という教科書である。ガラスごしのオハラとロートンの切返しも美しい。
ケント・スミスの逃亡場面が2回ある。屋根伝いに逃げる場面と汽車の操車場だ。特に操車場の場面は、階段に樽を転がして追手を制して汽車に飛び降りる躍動感が素晴らしい。サンダースとスミスの仕事を鉄道員にしたのも面白い。サンダースの執務室の窓外を汽車の煙が上がるのが印象的だ。
原題は「This land is mine」
本作はレジスタンス映画のなかでも異色作だ。ナチスの恐怖をあからさまに描くのではなく、ナチスに協力していく市民の弱さ、ずるさ、保身、裏切り、密告をじわじわと描いていく。派手な戦闘場面はない変わりに心理的な重圧感が凄いのだ。それをルノワールはオンでは描かない。密告の場面はオフだ。だから余計に登場人物が全て怪しく見えてくる。ルノワールは恐ろしい。母親役のウナ・オコナーがいい。ドイツ将校はウォルター・スレザックではなく当初はエリッヒ・フォン・シュトロハイムが想定されていたらしい。
ナチスの司令部のセットが大きい。ガラス張りの奥行きがある空間で外には人通りが見える。ナチスの装置は巨大に見せる。これは優れた監督で共有されている了解ではなかろうか?
全体のリズムが素晴らしい。人の出入り、事が起きていくテンポが的確だ。反復もいい。朝食時にオコナーが時計の針を先回して早めに鳴らし、天井を棒でつつく、二階から下りてきたロートンが約束事のように時計の針を戻して食卓に着く。微笑ましい日常を律儀に繰り返す。しかし、この日常が失われた時のかけがえのなさが見終わったあとに重く響いてくるのだ。巨匠ルノワールの恐れ多い逸品である。
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