あきらむ

ザ・バニシング-消失-のあきらむのレビュー・感想・評価

ザ・バニシング-消失-(1988年製作の映画)
4.3
予想以上の結末だった。犯人のレイモンが「ただの殺人ではつまらない」ようなことを恋人を探すレックスに語りかける場面、嫌な予感がした。そして、それを上回る嫌なことが起こった。

話の筋も結末もシンプルであるのに、底知れない恐怖がある。伏線やキャラクターになんともいえない不穏さがあるからだろうか。

のんびりした音楽やのびやかな晴天の場面が多く、全体的に弛緩した映像になっている。起こっていることは恋人の失踪という悲劇だと言うのに。恋人を失ったレックスの心の穴や虚無感がなんとなく漂ってくる。同時に犯人であるレイモンの心の穴や虚無感も漂ってくるような気がするから不思議だ。

レックスの恋人を失ったことで方向性を失った人生とレイモンの妻と娘に囲まれ職にも恵まれた人生のエピソードが交互に織り込まれていて飽きることがなかった。

レイモンのエピソードでは、レイモンのおちゃめな1面やパパとしての普通の1面も見られておもしろい。エピソードの中にレイモンの独白で犯罪至るまでの経緯が語られる。それは憎しみや怒りではなく、自分の証明もしくは趣味なようなものであることがわかってる。猟奇的な理由なはずだが語られ方があまりに自然だから、怖さをあまり感じずにのみこんでしまった。レイモンの話を聞くレックスもお前は異常だと怒りながらも時に呆れたような笑みを見せるくらいだ。レックスとレイモンが途中、アスレチックにもたれながらどうでも良い話をする場面があり、私はなんとなくその場面が好きだ。猟奇的な理由でこっそり時間起こす男とその被害者が友人同士のように話す。秘密を共有していることとその事件に異常な執着をもやしたことによるのだろうか。

一方レックスのエピソードには常にレックスを監視するレイモンの姿がある。レイモンはペットを見るような目つきでレックスやレックスの関係者を見つめている。レイモンはくまさんのような見た目なので、不気味さや不思議さがあり、あとからじわりとなんでいるんだよと怖さがやってくる。

結末について、あのシーンはしばらくの間私の頭の中にこびりついたままなんじゃないかなと思う。レックスの立場を想像すればするほど気が狂いそうになるのだ。