馬井太郎

北北西に進路を取れの馬井太郎のレビュー・感想・評価

北北西に進路を取れ(1959年製作の映画)
4.3
「北北西」という方角は、私が見損なっているかもしれないが、映画の中には一切出てこないと思う。
「北」に向かって一直線ではない、「西」だと、左直角90度、その中間で、ちょっとばかり北の方角、これが「北北西」だ。斜めの美学、という言葉がある。傾きは、左でも右でもいいだろう。だとすると、北北東もあるんじゃないか、などと、変なところに眼が行ってしまう。
閑話休題。サスペンスは、ラブストーリーと抱き合わせが多い。間一髪警察に無事助けられたロジャーを、いち早く迎えにきたのが、妻とか恋人ではない、母親というのが、おもしろい。だから、てっきりマザコン独身男かと、思いきや、エヴァマリーとの列車の中での会話で、ばついち、だとわかる。
この場面での、ふたりの探り合いが見ものであるが、細かいことを言わせてもらおう。食堂車の窓辺に鉢植えが置いてある。ロジャー側に1個、エヴァマリー側にも1個、二つ置いてあるように見える。これが、同じ花の鉢植えだ。どうも、不自然な感じがする。列車が駅に停まって、刑事が向かってくるのを窓の外に見た時の位置が、変わっているように、私には見えた。
ま、こんなことは、どうでもいいことなのだが、DVDなどで、何度も見られるような時代になると、封切り劇場で気がつかなかった細かいシーンまで、気になってしまう功罪に一喜一憂する。
ヒチコックが乗り遅れたバス、広大なトウモロコシ畑近くの停留所に停まったバス、ドアが自動に見えた。1959年に、アメリカでは、既に自動開閉だったことがわかる。それにしても、なんというレトロなワクワクさせるバスだろうか。
父親と一緒に当時ロードショーを見た。ロシュモア山崖下に転落しそうなエヴァマリーをロジャーが引き上げると、二人は列車の寝台の上だった。このとき、劇場内がざわつき、親父が隣で、なあーんだ、とつぶやいたのが、今も心に焼き付いて離れない。
ヒチコックの最高作であると思う。