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催淫吸血鬼のhorahukiのレビュー・感想・評価

催淫吸血鬼(1970年製作の映画)
3.9
これぞ成田離婚!

フレンチホラーの巨匠ジャンローランによる吸血鬼映画。おそらく監督作の中で唯一レンタル取扱いのある作品。

冒頭カッコ良すぎやろ!男たちが棺を城の中に運び入れ、女たちはその場でただ茫然と立ち尽くしている。草木が生い茂る中に立つ古城というロケーションを活かし、褪せて黄色みがかったモノクロ映像と規則正しく鐘が鳴り響く音のみで演出する荘厳な空気感。

そんな上品さを漂わせておきながら、OPを挟んでウエスタンでも始まるのかと思わせる軽快な曲とともにカラー映像に変貌する温度とテンションの差。青い壁、真っ赤な螺旋階段、古城の壁を伝い流れ落ちる血、真っ暗闇の墓場で墓石に当たる月明かりのような朧気な青白い光と対比するかのような強烈な赤い照明等、強烈な色彩が陶酔してしまうほどの幻想的な空気感を創り出しているし、そうかと思ったらアホみたいな笑い声とともに棺の蓋が一つずつ捲れていくジャンプカットのアホさよ。ここでめちゃ好きなやつ!ってなっちゃいますわね。

そこからは強烈な映像センスとシュールでくだらないコントのようなキャラクターたちのやり取りが相乗効果を生んでんのかは良くわかんないけど、そこに派手なBGMが合わさることで唯一無二で不思議な中毒性を生み出していて、眺めてるだけで何だか楽しくハイになってくるのはローラン監督の味なんでしょうね。好きだわ。

唐突に始まるレズプレイとか、とにかく喋りたい眷属たちのカメラの奪い合いとか、大きなノッポの古時計みたいなとこから出てくる吸血鬼さんの「そんなとこで何してたん?」感とかわけわかんなすぎて大好きだし、映画史上最強(多分笑)のトンガリ乳首で相手の女の乳首をピンポイントで射貫いちゃう発想はどういう風に生きてきたら出てくるんやろ…サイコーやね!

そんで、自分で血を吸って眷属にした男たちに「お前良い体してんな」とか言われて逆にレイプされちゃう吸血鬼さんのおマヌケ具合を見せられると何だか可愛く思えてくるから不思議!しかも棺はなぜか外に堂々と置かれてるし、「なにこれ?」てな感じで開けようとした人に、「開けないで!」とか棺の中からお願いしちゃう吸血鬼さん天然すぎる!威厳もクソもないね。

それでも女性の裸込みでガチっと絵画的に決めてくる美しさは期待を裏切らないし、何度も使用される回転するカメラや交互に顔を捉える遊び心のある演出やせりふ回し・キャラの掛け合いがおバカコメディな色を強めつつも、アートなセンスと吸血鬼設定特有の物悲しさが絶妙なさじ加減で作品全体のバランス調整をしているため、見終わった後の満足度がめちゃ高くて、改めて凄い監督だなって思いました。

中でもあのラストシーンまでの一連のシークエンスは大笑いすること間違いなし!それなりに色々と設定をばら撒いてはいるんだけど、そんなの別にどーでもいいやって感じで、それまでに作り上げた映画の世界観すら茶化して笑い飛ばすかのような最高の幕切れ。それでいて、首の皮一枚で踏みとどまった人間性なり善の心の解放としても解釈可能なところに監督の狡猾さが顕れていますね。というか彼方こそが「人間だ」って言いたかったのかもしれないし、ある意味では人間の内面的葛藤を夫婦という形で表現したのかも。どっちにしてもほんと素晴らしい成田離婚ですわ!

ジャンローラン監督って凄く良い人だったんだろうなってのが何となくだけど伝わってきました。ちなみに最後まで見終わった後に映画の冒頭を見ると同じ作品だとは思えないほどのギャップを感じられるのでオススメです。
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