あなぐらむ

ウルトラマンサーガのあなぐらむのレビュー・感想・評価

ウルトラマンサーガ(2012年製作の映画)
4.6
公開時に新ピカで鑑賞。「大全集」も買った。
恐らく震災後に初めて、"誰かのせい"とか"国家がどうの"とか、過去に遡及してとかいう話ではなく「震災」を描いた最初の作品。
(初期脚本が脱稿したのが震災の前日だったそうなので)

初期平成ウルトラシリーズや「GMK」で知られる長谷川圭一の脚本は、震災後の世界を「大人のいなくなった世界」として設定。そこに今では皆さんお馴染みのゼットンを擁するバット星人(という事はこの世界は新マンの世界観に直に繋がっている?)の魔の手が迫り、子供たちを救う為に「光」となったアスカ=ウルトラマンダイナが別バースから救世主となって現れるという、長谷川自身の過去作(メインライターとしてのデビュー作)の「その後」の物語である。
同時に、この頃にはまだZさんを弟子にしていない若造のウルトラマン・ゼロが初めて人間体=タイガとなって馳せ参じる、という趣向の映画でもある。当時「もうゼロも三年目だから違う事をやろう」という事でこのアイデアが出たそうだ。

公開まで殆ど時間がないような製作スケジュール、DAIGOやAKBをキャストしなくてはいけないという条件を、監督のおかひできは逆手にとって世界をビルドアップし、製作費を削減しながら非常に上質な「子供向け映画」として仕上げている。今のようなオタク受けではない、(今時のちょっと大人びた)子供にちゃんと向けた物語であり、ウルトラマンコスモスも久々の映画登場となる客演を見せて、怪獣もいっぱいの娯楽編となった。
AKBが扮するチームUの設定(子供たちに本当の事を言えず「嘘」をついて防衛チームをやっている)もよく捻られていて、それが子供たちと一緒にウルトラマンと共闘して怪獣を倒そうとする作劇には、長谷川らしい真摯なドラマが感じられ、ぐっと来るものがあった。「諦めない心」「人を信頼すること」というのは、結果的に震災後の国民的なテーマと一致していく事となった。

AKBの面々がなぜ消えていないのかというと、これは「大人ではなく子どもでもない」という立場であって、それは「光」を召喚する「巫女」の様な存在ではないかとも考えられる。実際、ヒロインのアンナは生命の危機のさ中で「光」と邂逅する。平成ガメラ以降のヒロインの役割というのは非常にアニミズム的なものに回帰していて、本作でもそれが踏襲されている。

DAIGOは思いのほかこの破天荒なタイガのキャラに自らを落とし込んで、巧みに演じていた。つるの剛士も大人になったアスカという位置づけで、子供たちの精神的な支柱=父の役割を担って良かったと思う。杉浦太陽もコスモス時と変わらぬすらっとした、それでいて大人になった感覚で好サポート。

何より、秋元才加のアクション女優としてのスキル開花というのが本作の一番の見どころだろう。強い女はタンクトップで戦うものなのだ。現在はハリウッド作にも呼ばれてその身体能力を発揮しているが、もう少し日本で何か無いのか。勿体ない。姐御肌のキャラクター、コスチュームデザインも決まっている。

特撮美術を平成ガメラの三池敏夫さんが担当されていて、相変わらずの作りこみで「実際に作って壊す」という伝統芸をやってくださっていて楽しいばかり。劇中に登場する「Uローダー」は非常に良く出来てロボットデザインなので、これも注目である。
おかひでき監督は「自分は各パートの調整役」と仰っていただが、よくまとめあげて熱い物語を作ってくれたと思う。

ニュージェネに移行して現在は安泰のウルトラシリーズだが、玩具販促、声優オタ商売に少し傾斜しがちな傾向にあるのは惜しまれる。
この「大変な時期」にわずか22日(AKBは12日しかいなかった)で撮影を終えた本作は、ウルトラマン映画として、また邦画特撮の秀作として、記憶に遺したい一本である。