クシーくん

デイジー・ミラーのクシーくんのレビュー・感想・評価

デイジー・ミラー(1974年製作の映画)
3.9
原作者ヘンリー・ジェイムズはアメリカ出身だが、その最晩年に自国の弱腰な姿勢に業を煮やしてイギリスに帰化するという風変わりな経歴を持つ。
『ねじの回転』というヘンな怪奇小説も書いている(寧ろ現在では一般的に「ねじの回転の作者」として有名か)が、上記の経歴を持つジェイムズは『ある貴婦人の肖像』や『鳩の翼』、あるいは本作のようなアメリカと欧州の価値観の相違を描いた作品を数多く著している。本作はジェイムズの著作の中では頁数も少ないためか日本の読者に広く読まれてきた。

欧州の滞在期間の方が長くなるアメリカ人青年ウィンターボーンが、生粋のニューヨーク娘であるデイジー・ミラーに恋をする話…といってしまえば他愛もないが、このデイジーがかなり強烈なキャラクターだ。自分勝手で天真爛漫、口から先に生まれてきた長広舌を振るいかつ思うさまに行動し、保守的な欧州人の誡めなど屁とも思わない。一目ぼれしたお坊ちゃんの主人公もめちゃめちゃに振り回される。デイジーの言動は”欧州人士”を辟易させやがて疎んじられるが、彼女の「奔放さ」とやらも、現代人の目から見れば呆れるほどたわいもないことで、このようなことで不品行の烙印を押されるデイジーが哀れでならない。

この作品のミソは単に金持ちのお坊ちゃんが恋の悩みでヤキモキする話ではないということだ。小説以上に映画ではハッキリ、分かり易く提示されているが、これは主人公ウィンターボーンの恋愛譚ではなく、飽くまでも「デイジー・ミラー」のお話である。そこに思い至るかどうかで本作の印象が大分変化するのではないかと思う。彼女が作中「マギー、若き日の歌を」を歌うのが面白い。無邪気で天真爛漫な彼女が歌うにしては余りにも老成した内容の歌詞が妙にアンバランスでエモい。ウィンターボーンはジェイムズの一部だ。病める異邦人とアメリカ人の対立を描いた素朴で小粒な作品だが、なかなか悪くない。

脚本としてはジェイムズの原作を率直に再現しているだけだが、シヨン城を美しく撮れていて良い。配役で言うとシビル・シェパードの美貌は正しくデイジーの役に相応しい。例え唐突であろうとも、あれだけ振り回されても主人公が夢中になるだけの説得力はある。
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