Ricola

リリスのRicolaのネタバレレビュー・内容・結末

リリス(1964年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

美しいジーン・セバーグの狂気に満ちた表情や行動が、自然の描写とリンクするように描かれている作品。
閉鎖的な施設と開かれた自然というのは、実はとても似ているのかもしれない。


のどかな気候で美しい庭園の様子と、雨が降り続ける嵐の様子とのギャップは、まさにリリスの精神状態そのものを示しているだろう。
穏やかで付き合いやすいかと思ったら、急にタガが外れて暴走し出すのだ。
彼女の本能は誰にも止めることはできない。

冒頭から何分かの間ゾワゾワとする感覚を抱くのは、網目ごしの描写だろう。
網目から部屋に引きこもる患者を見つめる。また患者も彼らを網目ごしに目で追っている。
なかなか姿を現さないリリスも、網目ごしに外の世界を見つめているのだ。

また、無機質でほぼ規則的な音も作品の不気味さを演出している。
ヴィンセント(ウォーレン・ベイティ)が家で祖母と二人で夕食をとっているとき、おそらく時計によるカチカチという音が鳴り響いている。
さらに施設の庭で彼が患者たちと過ごすシーンでは、風が木々をこする音や鳥のさえずりが聞こえる中、卓球のラリーの音が響き渡っている。自然の心地よい平和な音響空間のなかで、鳴り響くピンポン玉のラリー音は不安感を煽ってくる。

リリスと水の関係はとても興味深い。
散歩中にキラキラと日光が反射する湖を楽しそうに見つめている。
さらに水面に映る自分の姿を見て喜ぶ。
リリスは水の中のもう一人の自分を、「彼女」と呼ぶ。つまり自分自身であると考えていないようだ。
水面は太陽の光が輝いて美しく見えるときもあるけれど、映るものが歪んで見えるときもある。この水面との関係は彼女の精神そのものなのではないか。

統合失調症の患者の血液に流れる物質が、犬や蜘蛛にも発症させうること。
通常の蜘蛛は左右対称の巣を張るけれど、発症した蜘蛛は不規則な形を構成するという。
ヴィンセントはリリスの血液を得ずとも、「感染」したということだ。

リリスに狂わされていくヴィンセントの変化があまり表出されていないように感じた。彼にも元々そのような要素がそなわっていたため、ただそれが引き起こされただけなのかもしれない。
しかしそれにしてもリリスから伝染した狂気を、彼の表情や眼差し、行動から感じ取ることができなかった。

ジーン・セバーグの怪演ぶりが素晴らしく、自然描写と無機質さの組み合わせによって彼女の精神状態が見事に表現されていたが、肝心のヴィンセントの変化がいまいち分かりづらいのが残念に感じた。
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