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ナチスが最も恐れた男のtorakoaのレビュー・感想・評価

ナチスが最も恐れた男(2008年製作の映画)
4.0
オープニングがいい。主張しすぎずじわじわ盛り立て引き込むような音楽と効果音。新聞記事などが次々映し出される映像。ありがちだろうけど、添えられてる音楽と相まって引き込まれていく。
が、ノルウェー語らしき記事の見出しに字幕入れてくれてないので、ここである程度説明されてるであろう背景がわからないまま本編に突入してしまうのが厳しい。その後のテロップには字幕あるが、無知な上に事前情報なしで観始めたのでそれだけでは不十分で困った。
クヴィスリング政権の概要だけでもさくっと読んでから観るべきだったらしい。

銃撃砲撃の音が控えめ、かつ柔らかい。布で包まれてでもいるかのような輪郭のぼやけた効果音で、珍しいなーハリウッド映画なら派手にドンガンやかましくしたがるとこだろうにと思ったら夢(回想)だった。という冒頭で、おおーなるほど!と。この作品を鑑賞するのが俄然楽しみになった。

音楽にも音量のバランス感にも好感持てたので好意的に鑑賞でき、全体通して鼻につくものがないと思った(揺れる画面以外)。
使いどころと使い方が練られていて、主張はしないがしっかり効果的といった感じの音楽が秀逸。観客の感情を操作しようとしてこない静かめな作品。凄く褒めたい。

控えめ演出で派手にしようとしていない描き方が、ヒーローめいた架空の人物ではないことを伝えてくる。
主人公は特異な経歴を持つ人物のようではあるが、逮捕されそうになった際に窓から飛び降りて逃げおおせたことで有名になっているだけのレジスタンスの一人といった感じで特別凄い人物としては描かれない。その程度のことで?と思うが、その程度で人々が快哉を叫び希望を持つような心境だったなら、どれだけ閉塞感と陰鬱感があったことか窺える。
エンタメ的に「その程度」ながら、自分がこの時代この国の青年だったら彼らのように行動できたろうか?と考えて観てしまい、絵的に地味な場面が真に迫ってくる。

彼らにとっては日常なので敢えて魅せる演出はしなかったのだろうか。彼らの生きた時代を体感させるような意図を持って作ったとしたら、少なくとも私には効いた。

地味でつまらないと思う人もいるだろうが、私は実直と感じ好印象を持ったし、興味深い台詞ちょこちょこあるし、観てよかった。レ・ミゼラブルのカフェ・ソングが脳裏をよぎる場面もグッときた。

惜しむらくはところどころで現れるやたら揺れる画面。短時間ずつだし中盤ぐらいまでは使いどころを考えてあるように思えたのでそこまで印象悪くはなかったが、終盤、動きのない場面で揺れまくってたのは解せない。撮影者の体調が心配になってくるレベル。これさえなければ傑作認定したかもしれない。

映画好きな人からすれば見慣れてたりどの作品の模倣だとか何とかあったりして別に何とも感じなさそうな気もするが、拷問場面のドイツ将校がシガレットケース取り出すあたりからの余裕とこなれた手つきのエレガントさにぞくっとした。拘束され血と色々で汚れてるレジスタンスとの対比がこの時代のノルウェーを擬人化的に象徴してもいるようで、うわーこれは……と。そこのさらっとした見せ方のセンスが粋な感じで強く印象に残ってる。

非情さ冷酷さは感じるけどステレオタイプのサディスト的ドイツ軍人には描かれてないとこもいい。異常・異質な世界としてではなく鑑賞者のいる世界と地続きのように感じさせようとしたのかもしれない。地味ながら実感を伴う薄ら寒い怖さがあった。
残酷描写や暴力描写、戦闘・アクション・狂気といったものなどは少ないので、そういうのを求める人はガッカリするだろうけど。

これキービジュアルと邦題のせいで誤解されたり印象悪くなったりしてやしないかなー。ジャケット詐欺っぽい。思い当たる光景はあるけど色味とか色々盛りすぎてもはや別物だと思う。
戦争映画というよりヒューマンドラマて感じで、原題は主人公のフルネーム。邦題は誇大広告的なのでスルーでひとつ。

吹替は字幕入るとこだけで外野の声、聞こえてくる声とかガヤとかはそのままか無音になってるわ、「処刑の命令を?」とか字幕まんまの察しろ的省略台詞だらけだわ、痒いところに手が届かない感。そういうとこ確認したくて吹替重宝してるんだけどなー。
曖昧台詞だらけの台本渡されただけでニュアンス入れた芝居ができる状況でもなかったのか、声優陣もとりあえずこなしてるだけみたいになってて手抜きっぽい印象に。字幕版と吹替版の翻訳者が別になってることが多い意味がわかった気がした。

あと、エンディングで劇中での呼ばれ方と違う字幕つけたのはどうかなー。演者の顔写真あったからどの人のことかわかるけども。
人物紹介に「1987」て書いてある人のとこに「2006年に他界」とどこにも見当たらない数字使った字幕出てきたり、ついでにドイツ将校を「少佐」て呼んでたけど襟章確認したら違うようだったり。作品はいいだけに日本語版は何だか口惜しい。

タイトルロールの人どっかで見たなと思ったらつい最近観た『クローバーフィールドパラドックス』のロシア人クルー役の人だった。戸惑い続けながらもおずおず受け止めようとするような表情で内面を表現してるとこよかったと思う。

これまで観たポール・スヴェーレ・ハーゲン出演作中一番若い頃なはずだが何故か老けて見えた。痩せてやつれて見えるのか。そしてまたヤーコブ・オフテブロも出てた。きみたちはセットなのかい。タグつけることにしたけど「ヤーコプ(半濁点)」のほうが正しいのだろうか?
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