Anima48

ムーンライズ・キングダムのAnima48のレビュー・感想・評価

ムーンライズ・キングダム(2012年製作の映画)
4.0
小学生の夏休み、15少年漂流記やトムソーヤなどの冒険を読んでぼんやりと空想していた頃、将来結婚しようねなんて話していたあの子は今何してるんだろう、当時は結婚の意味なんて全く分からなかった。

冒頭からの監督の映像スタイル、つまりコメディタッチで音楽に合わせて部屋から部屋へパンする正方形のカメラでドールハウスのように灯台の家が紹介される。そして島には大きな嵐が近づき波乱の予感がする。黄色が多くて、カーキスカウトの制服、テント、カヌーに始まり森の様子や木々の葉っぱも北国の夏の終わりだろうか黄色く見える、ちょうど画面全体が土曜日の午後のような優しい光で、すべてのものが少し色あせた写真のような優しい黄色に照らされていた。自然物の入り江、山の小路、全てのモノがシンメトリーに配置されていて、山や川、谷なのにどこか箱庭の中のような絵本のような雰囲気がずっと守られている。手紙、 地図、テント、双眼鏡という児童が心に描く冒険に欠かせないレトロなグッズが物語上きちんと役割を果たすし、少年たちが使うツリーハウス・テント・カヌー・銃・ナイフ等はどれも本格的だけれどどこか寸詰まりで可愛い、何かの調度品のようにも思える。一場面毎に額に入れて飾りたいくらい可愛くて綺麗だった。

・・疎外された二人の子は一晩で大人になろうとした、ゆっくりと育っている余裕なんてなかったから。画面は可愛さでコーティングされてはいるけど世の中には暴力・無情さもある。まだ大人の保護下で暮らすはずなのに、大人の事情に翻弄される2人。孤児サムは嫌われ者、ルーシーも親から厄介者扱いされていて、二人とも自分なりのスタイル・純粋さを持っている。12歳の2人は出会って、駆け落ちを計るけれど10日程度しか想定していない辺りはまだ子供だったかな?デビークロケットのような帽子、角眼鏡を身に付けたサムは、ボーイスカウトの格好に銃やナイフをもって探検家のような恰好。ルーシーはピンクのドレスと白いソックス、おとぎ話を詰めたトランクと猫とレコードプレーヤーを持っていて対照的だ。やっぱりこのちぐはぐさが面白い。サバイバルや逃避行をきちんと計画したんだろうけどまだ子供の様子で、だから却ってその想いの真剣さを感じた。

サムとスージ―は笑わない、スージーのこちらの真意をただすような視線が印象に残る。思春期の入り口に立っている子供たちは、サバイバルの末たどり着いたあの浜辺で、一晩のうちに大人になろうとしていたのかもしれない。ルーシーは水着の胸に触れていいとサムに告げ、釣り針のピアスで穴が開き一緒に一夜を過ごす、12歳にしては踏み込んだ表現で少し戸惑うけれど。サムはコーンパイプを咥え、ルーシーは濃いブルーのアイライナーを引いている等まるで大人のカップルのような佇まいで真剣に愛を謳歌する。どこか背伸びや無理をしているようで愛おしい。ルーシーが読み聞かせをしてもサムが眠り込んでしまうあたりが将来の倦怠を予言しているような気配もあった。

追跡者のボーイスカウトの子供達の装備は大人のそれで、追跡チームの獰猛な態度やキャンプの様子は軍隊のようだった。そこに警部、リーダー、福祉関係者とどんどん加わってくる。CG臭のない凝ったシーンがテンポよく進んで、子供達の列がレゴの人形のようで見ていて愉しい。

二人が連れ戻された夜、それぞれの人物に変化が生まれる、子供達が大人のように思いつめ、真剣に自分達のサムへのふるまいを顧みる、このままでは僕達はクズだと。そして素早く行動する、そういえば登場する子供たちはそれほど笑わないように見える、思えば繊細な少年期には余裕をもって物事に対応するなんてできないから、いつも必死だったような気がする。反対に周囲の大人たちはまごまごして鈍く、自らの事情で疎外感を味わせてしまった子供から逆に翻弄されて複雑な考えや状況を理解できないしどこか主体性がない、本国に指示を仰ぐ光景が多かった。そしてそれはまるで死の天使のようなティルダを島に招くことになる。

変わった短所や気難しさを備えた個性的なキャラクターが今回も出てくるけれど、大人の世界では軽く見られ褒められたものではない大人が子供達と向き合うようになる、ブルースウィルス演じる物悲し気な独身の警部、エドワードノートン演じる時折自己嫌悪の表情を見せるボーイスカウトの隊長、密会している母親。特にサムに警部がビールを注ぎながらサムと対等に語り、大人の役割に目覚めサムに寄り添うシーンは矛盾しているようでものすごく腑に落ちた。

1回目の逃避行は2人で、2回目の逃避行はチームで行う大作戦、結果は収まるところに収まるという良いエンディングだった。2人は世の中の場所に居場所を得、周りも大人として2人に居場所を与えることができた。

あの入江は亡くなったが、あの晩夏のあの夜だけの王国だったのかもしれない。まるで僕の児童のころの空想にサムとスージーが逃げ出してきたようなそんな不思議な感触が残ってる。

….終わりつつある夏の日に見ることが出来てよかった。
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