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ハッシュパピー バスタブ島の少女のRのレビュー・感想・評価

4.4
命の話だった。生命の話。生と死の話。中盤まではちょっとノレないかも…と思ったけど、最後は涙ボロボロ。子どもが主役のゆるいファンタジーなのだろうと思ってたら、めちゃめちゃ深く重いテーマを秘めた、幻想とリアリズムがドキュメンタリータッチの映像の中で融合した、心を締めつける映画だった。主人公のハッシュパピーは、アメリカの河川近くにある、温暖化で海に沈みつつあるバスタブ島に、パパと二人で暮らしてる逞しい少女。年に何度もある祭りで彼らが島民と大騒ぎしてるシーンから始まる。最初は手持ちのカメラがグラグラしすぎなのがかなり気になったがだんだん慣れて、本作の目まぐるしい世界観にピッタリだな、と思えてくる。花火でブワーッて画面が真っ白になって、ちょっと引いて花火を持ってるハッシュパピーの姿を捉え、タイトルがでっかくドーンと出るのがまず心に響いた! ハッシュパピーはお母さんがいなくて、お父さんはなかなかの荒くれ者だが、どうやら病気のようで、ふらふらになってる時がある。ある日、お父さんが一時姿を消したとき、ハッシュパピーがひとりで料理しようとして、大失敗で家が火事になったり、まぁいろいろ騒がしくてホント大変な人たち笑 ある日学校の授業で古代の人食い巨大生物オーロックスについて教えてもらったハッシュパピー。温暖化で氷河が解け、氷に閉じ込められてたオーロックスが解放されて、バスタブ島に攻め込んでくる想像を膨らませる。そんな時、嵐がバスタブ島を襲う。洪水で家が沈み、ボートに乗って移動することになる。やがて、海水が大量に入り込んだことで、バスタブ島にある全てのもの死に始める…。という流れ。めちゃめちゃ印象的なのは、ハッシュパピーがいろんな生き物に耳をあてて、心臓の音を聴くシーンが何度も出てくること。あらゆる生命に息づいてる宇宙のリズムに耳を傾け、生きとし生けるものすべてが持つ個体性を超えた宇宙の法則を体で感じる。それを一瞬一瞬のショットの積み重ねでとらえていて、素晴らしい。ハッとさせられる。確かによくよく考えてみると不思議でしかない。人体の場合、1分に約70回の心拍で、全身に7Lの血液を送ってる。てことは、1日に10万回、1年で3650万回、80年だと29億2000万回。その一方で、1秒に5000万個の細胞が生成生滅している。これこそ、我々の意識や知識を遥かに超えた制御システムにより、大宇宙の隅々にまで隈なく行き届いた生命のリズムなのだ。ところが、我々は表面的な差異によって人をジャッジしたがる。というわけで、僕も見ながら、お父さんが荒っぽいカニの食い方を子供に押し付ける姿に、むうう、と思ったりしたが、我々の文化においては、汚さずなるべくきれいに食べることを子どもに押し付けてるので、あー文化が違うだけでおんなじことだよなーと反省したり。また、後半に出てくる洪水の避難所では、病人が管に繋がれて、自然の生命力を奪われ、ボンヤリしてる姿を見て、痛みが苦しくとも、死ぬまで自然のサイクルの中で生命のともしびを燃やし尽くすのと、どっちが本当に幸福だろうか、と考えさせられた。そして、幻想と現実。元来、2つはどちらとも、等しく現実としてこの世界に存在しているはずなのに、それを明確に分け、幻想を切り捨てることにあまりに慣れてしまってた我々の文明では、目の前の表層的現実のみが真実だと確信して生きてる。ホントはそうじゃないんだよなーということもしみじみと感じさせてくれる。しかもそんなこんなをまったく無理なく、ストーリーの必然性のなかで見せてるのがホントすごい。そして、最後は、生と死が奏でる人間のドラマに、涙が止まらなかった。けれど、僕たちが死んだからといって、我々が存在したという事実が消えるわけではない。また、我々を構成してる物質を統合し活動させる生命のエネルギーがこの宇宙から消えることもない。生命は繰り返される。アメリカが舞台の映画なのに、アジアンな思想が色濃く感じられて、非常に興味深い映画だった。
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