藤原直樹

プッシャー2の藤原直樹のレビュー・感想・評価

プッシャー2(2004年製作の映画)
4.2
前作と同様に今回もコペンハーゲンの裏社会を舞台にしたダークなクライム映画になっている。
前作でフランクの相棒だったトニーが今作の主人公だ。
手持ちカメラの臨場感たっぷりなドキュメンタリータッチの映像と噴出する暴力性は健在。
ビビッドで強烈な色彩も頭に焼き付くようだ。

主人公が借金によって追い詰められていくという大筋は同じだが、今作はそこに父と子のドラマを盛り込んだ。

主人公のトニーは責任感もなくだらし無い自堕落な男だ。
父親と同様に裏社会の底辺に生きる犯罪者。
最初は"最低な男だ"と思う。
しかし映画が進むにつれて彼に感情移入していく。
彼の行動の背景にあるもの知っていくことで彼の内なる悲しみが見えてくるのだ。

彼は親の愛情に飢えている。
父親に認められたくて喜ばせたくてフェラーリを盗んでくる彼は何だか健気だ。
刑務所から出所して知る母親の死に動揺したり、自分のせいで孕ませてしまった女性に付き添ったり......最低に見えた彼の中に垣間見える人間性が魅力的。
犯罪者には違いないが、"悪人"かと言われればそうでもない。
ただただ愛を渇望しているのだが、それを表情や言葉に出さない。
愛されたことが無いから愛し方が分からない、だからこそ誰からも愛されない....そんなジレンマを抱える彼の姿が痛々しい。
彼の周りにいる人間は揃いも揃ってロクデナシばかりで、誰も彼に手を差し伸べることはない。
彼の悲痛な叫びは誰にも届かないのだ。

唯一の希望は彼が息子に対して抱いた父性愛だ....いつの間にかこの親子の幸せを願っている自分がいた。
藤原直樹

藤原直樹