ーcoyolyー

もうひとりの息子のーcoyolyーのレビュー・感想・評価

もうひとりの息子(2012年製作の映画)
4.3
これは全人類が観るべき映画じゃないのかな。「字幕松浦美奈作品に外れなし」の鉄則そのまま当てはまってた。

「そして父になる」と骨格としては同じ話なんだけど日本人の間の格差なんて甘っちょろい話じゃなくてイスラエル人とパレスチナ人の取り違えなので取り違え界においても世界最高難度のハードモードです。日本人と韓国人取り違えどころじゃない。

それでも母親たちは連帯・融和を心がけ努力する。父親たちは分断・対立して受け入れない。世界を男性の手から取り戻さなければならない、と思わざるを得ない女の強さ、男の弱さがリアルでした。そしてまた愛嬌は強い。医者のユダヤ母、医者の卵のヤシン、軍人のユダヤ父より何より勝ち残るのは人たらしのヨセフだ。自分で全てのスキルを身につけることは不可能だけど、その時々に必要なスキルを持った人の力を借りることができる愛嬌を持つのは強い。女は変に意地っ張りの男にうんざりしてるのでヨセフのような柔軟な愛嬌持ちの男は強い。そして意外と逃げずに芯が強い。ヨセフが弱虫ならパレスチナ兄のようないじけ方するはずだから、完全に医者と軍人のDNAを継いでどれだけイスラエルに、世界に踏みつけられても前を向きます、というヤシンの完璧超人っぷりと比較したり他人からされたりしてもいじけないところ地味にえらいよ、こういう子で。

大人の男のコミュ障っぷりと妹たち(女で子供である人たち)のコミュ力強者っぷりが鮮やかなコントラストを描いていて、あの子たち眩しかったな、良いよな、女で子供で軽んじられる人たちの強さの乱反射のプリズムが大人の男共の居心地を悪くさせてたの最高でしたね。これ女性監督作品なのよくわかるなって思った。

今イスラエルがパレスチナにしていることは、第二次世界大戦中にナチスドイツがユダヤ人にしたことと全く同じなんだけど、世界はあの時無視した罪悪感から被害者意識が暴走しているイスラエルのことを止められずにパレスチナのことを見捨てていて、この負の連鎖を止められない世界が私はたまらなく嫌です。かつてのいじめられっ子が何をされたら他人が嫌がるのか知り抜いているのでいじめっ子に反転した時の残酷さを目の当たりにし続けるのが嫌です。
いじめられっ子って自分がいじめられたから他人にはこんな嫌な思いをさせないように頑張って努力して踏み止まろうとする人と、自分がされた仕打ちなんだから他人もまたそれを受けるべきだと被害者意識の暴走する残酷ないじめっ子に反転する人の二極化なので、前者であろうと努力し続ける私は後者のイスラエルをいたたまれなくて見てられない。これ踏みとどまらなきゃパレスチナも将来また同じことを繰り返す可能性があるから、そんな世界を未来に残したくない。やってることがホロコーストと同じだというとイスラエルはキレるけど、イスラエルが求めるものはパレスチナを踏みつけて得るものではなくて、本来無責任な三枚舌外交を繰り広げたブリカスに対して謝罪と賠償と再発防止策を求めなければならないもので、弱いもの同士が潰し合うのを見せつけられるの本当に胸が痛む。本当にイギリスから土地奪えば良いと思う。世界中どこでも争いの種ばらまいてしらんふりであいつらロクなことしねえ…お前が撒いた種だよと言っても勝手に産んだんじゃないか!とかキレる不倫男だよね。そんで世界中で不倫しまくってる。

戦う相手を間違って潰し合いしてて本来一番責任があって償わなければならない対象がのうのうと他人事扱いで高みから見下ろしてる構図、本当に世の中から撲滅したいです。

この物語、どう落とし前つけるのかと思ったら何も解決せず終わらせてるのはとても真摯で誠実で、この問題の根深さ複雑さと真剣な向き合ったからこその「俺たちの戦いはこれからだ!」どころじゃない「そして人生は続く」エンドで、何事も大上段に国と国ではなく草の根交流しないことには始まらないので、ここから始まったものを大切に育むことが人間が人間として生きるための使命たと私は考えます。

多分これも「FOUJITA」と似たような形でフランス政府から助成受けてると思うんだけど(是枝裕和ドキュメンタリー見てたらフランス政府から助成を受ける映画は作品の何割かフランス語で作る、という条件を説明してたような記憶がある)、フランスのそういう文化政策で良作映画を支援するの戦略的に見るものがあると思ってます。
ーcoyolyー

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