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オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴのRのレビュー・感想・評価

4.7
睡眠不足のまま長い一日を過ごした深夜に見始めたので最初はちょっと不安だった。ずーっと夜のシーンで映像暗めやし、ストーリーは特にアクセントなく、ゆったり静かに進行する。あー。これは眠くなるかもなー。と思ってたら、逆にだんだんと覚醒していって気づけばギンギン。見終わった今思うのは、これはひょっとするとジャームッシュの最高傑作のひとつなんじゃないか、と。彼独自のテーマとスタイルが凝縮した一作となっている。そのテーマとは、まず、生きているという現象に内在する欠陥のひとつ、すなわち無為とか退屈とかであり、何をして何のために生きるのかが分からないことから来る、ぼーっと麻痺した感覚。それが本作では無限に引き伸ばされた形で提示される。主人公ふたりがヴァンパイアなのだ。名前はアダムとイヴ。既に永遠のような時間を生きてきた、ゆえにだらーんと緩みきった生である。これはボクが常々考えていることだが、人間の生の意味は死をどう定義するかによって変化する。たとえば、死を天国と地獄の分岐点とするなら、なるべく天国に行けるように行動する生になるし、死後には何も残らない、無に帰する、とするなら、生きてる間に何をしたっていいじゃないか、といった刹那主義的な人生になる。死の定義なんて考えないよ、とするならば、生の意味も考えない、もやもや不明確な生を生きなければならない。最後のパターンが現代人には多いように思うのでありますが、さて、ヴァンパイアは基本、死なないのであります。それはつまり、生きない、と同義になってしまう。まさにそんな感じのアダムは、生気なく、麻薬のような快楽をもたらすO型の珍しい血を大金払って病院の医師に調達してもらっては、暇つぶしに神経を麻痺されるようなロックミュージックを奏で、ゴーストタウンDetroitでひっそりと暮らしている。そんな彼のところに、タンジェから奥さんバンパイヤのイヴが帰って来て、一緒に暮らし始めるのだが…。という流れ。彼らは太古の昔からアーティストなので、様々な過去のアーティストたちと知り合いだったりして、いろんな有名人の名前が軽く話題に出てくるの面白いし、バンパイヤといえば貴族モンスターなので、一般の人たちをゾンビ、と呼んでるのも興味深い。言われてみればゾンビって庶民的なモンスターやもんね。で、そんなこんな、いろんな要素が重なり合って、映画全体のスタイルが、ふわーっとテンポ感なく間延びしてて、同時にエレガントかつアーティスティックなのです。このテイストが不思議と気持ちいい浮遊感を醸し出しててクセになる。さらに、現代人の血は汚れてて飲めない、だとか、昔は適当に人を襲ってもバレずに問題にならなかったが、人口が管理される現代においては簡単に人を襲えなくなってたりとか、ヴァンパイアを悩ませる問題も時代の流れともに変化してるんだなぁ、としみじみ感じる。芸術批評としても時代批評としても社会批評としても観てて興味深い。そんな彼らのもとに、イヴの妹エヴァがやってくることで、彼らの静かな生活が乱されていく様子を描いていく。本作最大の魅力のひとつはやっぱヴァンパイアふたりのインパクトでしょう。アダムを演じるロン毛のトムヒドルストンはダークで物静かで氷のように美しく、特に、筋肉質でスリムなボディは日本の女性に鼻血をいざなうことでしょう。対するイヴ演じるティルダスウィントンは蝋人形のような人間味のなさが魅力的かつ不気味。この二人が永遠の孤独な愛を奏でてて、何とも言えない情感を醸し出します。グラサンかけてボソボソと喋ってるふたりクールすぎ。で、空間を超えることのできないふたりが、量子力学のエンタングルメント理論に憧れて…………の最後の最後のショットのうひょーーーーーー!!!ゾクゾク! ひょーーーーーーー!!!
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