もものけ

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

デトロイトに住むアダムは、遠く離れたモロッコに住む妻イヴからの電話に塞ぎ気味。
イヴは愛するアダムの為に、デトロイトまで旅をするのだった。
しかしその二人は、永遠に時が止まって生き続ける吸血鬼なのだった…。






感想。
なんとも人間ではない風貌のティルダ・スウィントンとトム・ヒドルストン二人のルックスと、サイケデリック・サウンド溢れる音楽トークが魅力的な全然ホラー映画ではないヴァンパイア作品。

大好きな俳優アントン・イェルチンも出演しており、音楽映画となると彼は外せない役者で、バンドを組んでいるガチのアーティストでもあり、歌声もとっても素敵なナイス・ガイ。
しかし彼は2016年に事故死してしまっており、こちらの作品も遺作となっていて残念です。

そこにジョン・ハートとミア・ワシコウスカという豪華なキャスティングを交えて、役者の演技を観るだけでも楽しくなってくる吸血鬼達の物語。

冒頭からヴィンテージ・ギターのマニアックな会話が溢れ、音楽のコアなネタが好きな人には笑いすら覚えさせるダラダラとした会話劇。
アンプ内蔵のギターケースなんか、マニアック過ぎて関心してしまうほどです。

人を襲わずひっそりと闇に紛れて、不老不死のまま何世紀も暮らす空虚な人生ー
貴重な人間の血を入手する闇取引と、好みにうるさくヴィンテージ・アイテムで固めたアンティークな存在。
希少な血を手に入れて満足気に3人の吸血鬼が、まるで崇高な儀式のように味わい、ドラッグでトリップするかのように恍惚の表情で剥き出した牙がホラー映画っぽいですが、どこか猫を見るかのような可愛らしさすらこみ上げる不思議さ。
人を避けて隠れて暮らす理由は、血の誘惑から離れることであります。
故に"旅は大変なのよ"とイヴが語る言葉の重みが感じられますね。

音楽のみならず、装飾品のセンスの良さも魅力的で、デトロイトのボロボロの家に乱雑に配置されながらも、有名どころからマニアックなヴィンテージ・ギターが飾られた部屋。
ランプなどの照明設備とアンティーク家具が、不思議なオシャレ空間を作り上げています。

吸血鬼として神を憎み冒涜する内容が、未だに科学を否定する低能なゾンビ共という表現が面白い。
歴史に名を残した作曲家に影響を与えた音楽センスで、マニアックな人気を博すアダムの設定が面白い。
望郷の過去を懐かしみ、過ぎ去った思い出を語るように偉人達との馴れ初め会話劇が面白い。
ゆっくりとダラダラ描いておりますが、こういったセンスの良い会話劇が作品を盛り上げております。

アナログな生活を続けながら、デジタル(電気)に依存して信奉すらする吸血鬼が、現代人を表しているようで可笑しい存在です。

吸血鬼ですら生きづらい現代ー
人間に嫌気が指して、空虚な人生に辟易したアダムは、自殺を図ろうとしています。
エヴァが食い散らかした遺体の処理すら手間がかかり、身元不明者が吸血鬼の存在を危うくするなど、科学の力で便利になったはずの現代を風刺しております。

近代化されていないモロッコの夜の闇に紛れるほうが、進みすぎた社会で荒廃したデトロイトの街よりも安全に暮らせるという皮肉に、吸血鬼すら抱える哀愁を感じさせられ、テクノロジーが人間社会を堕落させてゆくかのように感じてしまうほどです。

老吸血鬼のキットはウィリアム・シェイクスピアであり、不老不死であるはずが"悪い血"によって寿命を全うしてしまいます。
不老不死でありながら生きることに必死な吸血鬼達の儚い物語でございます。

儚い命を持ちながらゾンビと侮蔑している人間は進化し続けているのに、不老不死で何世紀も生きて歴史を眺めている吸血鬼だけは退化しているかのように、ラストではタブーとしていた人間を襲う行為に戻ってゆく二人。

カッコよさとスタイリッシュな演出で、吸血鬼を描いた傑作に、5点を付けさせていただきました!!

永遠の命がもたらす怠惰なループは、知識だけは豊富でも懐古主義に浸って進化を認めない憐れな存在を生み出す堕落かもしれません。
もものけ

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