YusakuGodai

ラストエンペラーのYusakuGodaiのレビュー・感想・評価

ラストエンペラー(1987年製作の映画)
3.5
 中国の歴史を描く映画をイタリア人の映画作家が撮り、それがアメリカでアカデミー賞を受賞し、世界中の観客に見られる。はじめは不思議だと思ったけれど、作中で描かれる当時の中国が、世界史的の一つの中心地であったことを思い返せば、構図は変わらないのかもしれない。中国の歴史が、そのまま世界の歴史と繋がっていた時代。その時代を描く映画が国境を超えるのは自然なことだろう。

 あるいは、あくまで中国史の範疇でこの映画を捉えたとしても、変わらない。国によって歴史は違えど、すべての国が必ず、何らかの「歴史の終焉」を経験している。それぞれの「歴史の終焉」は、そして、それぞれの国の人々に、何かしら共通した情感を与える。水平線に沈みゆく夕陽に対して、驚くほど多くの人に似た感情を抱くように、ひとつの歴史が終わることについて、世界中の人が、ある種の普遍的な感覚を持っている。歴史に対するその普遍的な眼差しが、国境を越え、また史実を超えた「物語」としてのこの映画の普遍的な価値を、下支えしているはずだ。

 劇中に登場する、家庭教師・レジナルド・ジョンストンの著作のタイトル「紫禁城の黄昏」が印象に残った。おそらく『ラストエンペラー』が、まさに「黄昏」時の中国を描いた映画だったからだ。もっともそれを感じたのが、本編全体を覆う、独特の「静かさ」だ。「もの言わずに心を通じ合う」という孔子と荘子の対話も出てくるけれど、セリフと音楽が異様なまでに削られた静謐な映像世界は、もの哀しい終焉の雰囲気を湛え、観客に向けて、言外にあり余る郷愁の情感を伝えてくる。国や時代は違っても、黄昏が静かなのは同じなのだろう。

 中国国内での作品の評価が気になる。Wikipediaには、中国ではあまり話題にならなかったと書かれていたけれど、それならそれで、その理由が知りたい。紫禁城の貸し切りまで許した中国だけど、いざ出来上がった映画を見て、中国の人々は何を受け取るのだろう。
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