母を亡くして父と妹の世話をする主人公を原節子が演じている。
父の再婚を心配し、亡くなった母を忘れられない妹を励ます…。
しかし自分のこと、つまり結婚へはなかなか踏み出せない。
俯き顔から見上げる原節子の表情がとても美しい。
伝統的ないわゆる美徳とされてきたような日本人女性を、ここでは原節子は演じている。
公開当時の一般の人々の暮らしが見れるだけでも楽しい。
欧米のものを生活に積極的に取り入れていることに驚き。
夜ご飯にシチュー、おやつにエクレア、ピクニックにはサンドイッチなど…、日常生活に定着していることがわかる。
ネズミ捕りでキャッキャ騒ぐ若者が愛おしい。自然体な原節子の演技が、こういった何気ないような日常を描いた場面において、より生きてくる。
原節子の妹を後の黒澤明の妻となる矢口陽子が演じていたが、彼女の次女っぷりというか、少し甘えん坊なところと意地っ張りなところがかわいかった。
学校から帰ってきて、帽子を投げて帽子かけにかけるところなんかも、性格が表れているだろう。
そして若い杉村春子が学校の先生役で、そこまで大きな役どころではないが、抜群の存在感を放っていたのはさすがだった。彼女の表情や話し方の緩急だろう。先生として生徒を注意するときの程よい鋭さと、友だちと接するときの違いが面白い。そんな多面性が、あるあるというか、実際にいそうな人物らしくて微笑ましい。
時間の経過を木々の変化で映すのはよかったが、急に事情やらも変化し過ぎててついて行きづらい。
あまりその辺をなめらかに表現できていなかったように感じた。
しかしそれは予算やら尺の問題もあったのだろうから仕方ないことだろうか。
戦前の原節子主演映画の一本として貴重であることは然ることながら、当時の日本の庶民の生活を垣間見えることもあってよかった。