優しいアロエ

ノスタルジアの優しいアロエのレビュー・感想・評価

ノスタルジア(1983年製作の映画)
4.6
 『アンドレイ・ルブリョフ』の5年間の上映禁止処分をはじめ、ソ連の厳しい規制に翻弄されてきたタルコフスキーだが、本作を以て、ついに自国を抜け出した。

 ゆえに本作『ノスタルジア』は、『鏡』に劣らず非常に自伝的要素の強いものとなっており、「ソ連を出たのはいいが...」という主人公のカントリーシックがタルコフスキー本人の肖像と重なっていく。

 また、主人公と同行するエウジェニアという女性翻訳家。彼女の存在が、主人公が祖国に置いてきた妻と『仮面/ペルソナ』的に夢のなかで重なる。『惑星ソラリス』『鏡』においては「妻と母親の同一視」が見られたタルコフスキー作品、「失ってしまった女性を別の女性の存在が補完する」というのが潜在的なモチーフとなっている。(そして、その別の女性にも捨てられる)

 そんな非常にパーソナルな物語である本作だが、後半からは現代社会に対するペシミスティックな警鐘へと移行する。そして、その苦悶を燃やすことによって抹消しようという試みから、遺作『サクリファイス』の試験的な作品にも感じさせた。「歓喜の歌」は逆説的な皮肉ということでいいのかな?
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