ひこくろ

クラッシュのひこくろのレビュー・感想・評価

クラッシュ(1996年製作の映画)
4.1
100パーセント変態成分で作られているような映画だった。

登場する人物はみな、交通事故に興奮し欲情してしまう人たちばかり。
なので、映画の九割以上は、セックスシーンか交通事故シーンが占める。
ただ、ひたすら彼らの変態性を見せつけられるという感じ。
なのに、その変態性がとことんまで極められているから、なぜか観てしまう。

彼らの異常性欲の前には倫理観などなんの意味も持たない。
夫を殺した交通事故相手とも平気でセックスするし、同性とだってかまわず肉体関係を持つ。
なかでも、ヴォーンという人物の異常さは常軌を逸している。
有名人の交通事故死の場面をショーとして再現して見せたり、交通事故で死んだ友人の写真を撮りまくったりもするのだ。
そして、彼に導かれるように、主人公のジェームズも徐々に異常さを増していく。

性癖とはいうのはどうしようもないもので、どんな変態性も否定されるものではないだろう。
ただ、交通事故に惹かれるというのは、ある意味、死への憧れにも近いもので、極めた先の危険性は容易に想像が付いてしまう。
それでも、その先へその先へと突き進んでいってしまう人たちの姿は、死へと突っ走る人たちの悲劇とも言えるかもしれない。

それにしても、よくこのアイデアを映画にしてみせたと驚く。
ここまで変態性を突き詰めた作品を思いついた監督も、それを許した製作陣も、ちょっとおかしい。
そして、そのおかしさを許容する大らかさが1996年にはあった、と思うと少し羨ましくもある。
映画は少しも窮屈なものではなかったのだ。
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