かつきよ

ブルージャスミンのかつきよのレビュー・感想・評価

ブルージャスミン(2013年製作の映画)
3.2
元社交界の華、上流階級の奥様が、一文無しになり堕落してもなおセレブの頃の空気が抜けずに奮闘する話。あらすじからコメディと思われがち(実際Wikipediaなどではジャンルはコメディ)なのですが、実際はブラックジョークと言った方が近しい人間ドラマ。
内容もテンポ良く進み、社会派という感じはしないのですけど、人間として崩壊して人生がボロ切れの穴だらけの屑布の様にクタクタに擦り切らされて行くのを眺める約100分間はなかなかの体験で、社会派映画を見た時の様なやるせなさがあります。
明日も頑張って生きていこうとか、人生は明るく楽しいものだとか、そんな感じの映画ではなく、パワフルなのに陰鬱とした世知辛さや痛々しさを終始全身に浴び続ける映画でした。ラストの虚脱感はなかなか。みんな、えっ?終わり?って思いそう。

◆構成

没落した後の現代パートと、栄華を誇る玉の輿生活パートの過去と現在の交互のシーンが流れる構成。
切り替わりに際するカットインや文字の演出はなくていきなり切り替わるので、たまーに今の話なのか過去の話なのかがわからなくなったけど、それでも比較的わかりやすかったです。
現代パートでのジャネットのセリフや行動が、過去パートによってその真相が明らかになっていって、ジャネットの主張がいかに自己中心的なものに歪められているのかがわかる構成が面白かったです。あ、あれ嘘じゃなかったんだ……とか。かと思えば、そういうことかよ!と思うシーンもあったり、あれ、確かに半分ほんとだけど半分嘘じゃん!とかが多い。ジャネット、限りなく被害者なのに、このあたりの演出のせいで、よく言えば逞しさ、、、悪くいうと嫌なやつとか、病的な感じがナチュラルに伝わってきて色々辛いのです

◆何を差し置いてもケイトブランシェット様

この映画の個人的な最大の見どころ。
かっこよく美しく高貴で強い女性像のケイトブランシェット様……彼女が主演という事で少し期待値が高かったのですが、主人公のジャスミンのパーソナリティを、苦しいくらいに完璧に演じられていて、度肝を抜かれました。
従来のケイト様像に遠くない、豪胆で強い女性ではあるんですが、それ以上に登場した時点でかなり精神的に崩壊しているんですよ、ジャスミン。元セレブということもあって、もちろん回想シーン含め、豪華さや華はある。それでも、精神を病み、一文なしになり、常に溺れる様に……もがき苦しむ様に社会生活を送るジャスミンの不安定さ。滲み出る嫌なやつ感。リアルな虚栄心、プライドの高さ、全て透けて見えるケイトブランシェット様……すごすぎる。
私でも名前のわかる様な海外の映画賞で、軒並み主演女優賞を総なめしているのも納得の怪演。素晴らしかったです。

◆主人公ジャネットが本当に嫌なやつ

そのケイト様演じるジャスミンことジャネット、本当に嫌なやつなんですよ。それも、漫画やかアニメとかドラマとかによくありがちな、所謂キャラクターティックな嫌なやつじゃなくて、とにかくリアルで生々しい。悪役令嬢的なキャラクタなら笑えたかもしれないけど、妙に現実味を帯びていて、こういう人いるよなぁと思うとコメディとは思えない感じです。
ナチュラルに人のこと見下していて、都合のいい時だけ頼ったり、都合が悪くなったら切り離したり、自分のために平気で他人に嘘をつくし、プライドは高いし、地位や権力にこだわるし、、、
だから最初は嫌なやつだなと思います。なのになんとこの映画、セレブが堕落した先で貧しくても優しい人の心に触れて改心していく……なんていう物語では全くないんです。ジャネットは最後まで嫌なやつだし、見れば見るほど踏みつけられて……というか自分で自分をボロボロにして生きていくんです。
でも、不思議なのが、最後まで見ると嫌悪感はそこまでないこと。大体主人公が屑系は、個人的にそれだけでストレスになって評価最低をつけがちなのですが……。
ジャネットのこと、最初は、「うわ!元セレブが忘れられない成金女で嫌なやつだ」って思うんですけど、だんだん「痛いいたいイタイイタイ……そろそろ自分で自分の首を締めるのはやめてくれぇ……見てて痛々しすぎる……」ってなってきて……
最後の最後には「ジャスミン……かわいそう」ってなるんです。冷静に自業自得だし、嫌なやつだし、同情の余地なんてないはずなのに……。それでも同情の念を抱いてしまう人、結構いるんじゃないかなって勝手に思っています。

私の場合なんかは、なんというか、全然ジャスミンとは性格も生活も違うんですけれども、それでもどこか共感できちゃうんですよね。
少なくとも、正義感が強かったり、人が良くてたくさんの人に好かれていたり、誰かのために何かができたり、キラキラした真っ直ぐの心でひたむきで素直に頑張れたり、人のことを裏切らなかったり……そういうテンプレートな「光属性」の主人公像よりも、ナチュラルに人を見下したり、プライドが高かったり、見栄を張って嘘をついたり、それで怒ったり悲しんだりして、支離滅裂になってしまうジャスミンに、なぜか自分を重ねてしまうんです。どこか、自分にも似ているところがあるなって……思うんです。
そうじゃない人ももちろんいると思いますけど、同じ様に、最後の最後までジャスミンのこと嫌いになりきれなかった人がいるとしたら、私と同じ気持ちなのかなって、、、。






◆以下ネタバレも入れています












※ネタバレ感想も入ってきますので未鑑賞注意です










◆サリーホーキンス

妹ジンジャー役のサリーホーキンス、パディントンやシェイプオブウォーターでいい役もらってましたが、今作もまさしく怪演!という感じでよかったです。
最初は、聖人のような底抜けに優しいお人好しで、支離滅裂な姉に対して救済みたいなキャラクターなのかなと思っていたのですが、、、
実際にいたら、もちろん十分聖人だと思うのですが、それだけじゃないというか、ジンジャーはジンジャーでリアルで生々しい性格してるんですよね。そこらへんがこの映画の魅力かなとも思います。彼氏のチリくんに対する扱いとか……完全に向こうはお熱なの知ってて、彼でもいいけど、別にもっと条件いい人いれば……くらいのスタンスで生きているのとか。恋人というかキープくんって感じで、切り捨てたかと思えば、他の恋愛がうまくいかなくなったら寄りを戻してラブラブしたり、残酷だけどそんなもんだよなーっていう😂笑

◆チリ

一番無理!!
ジャスミンの元旦那(ハル)もドクズだったけど、個人的にはチリの方が絶対に付き合いたくないです。
好きだからという理由で、それが叶わなかった時に部屋を破壊して回る様な男ですよ?それは愛じゃないし、そういうシーンで破壊的になる男は、そのうち結婚とかして喧嘩した時に手を出してくるに決まってる。最後復縁してたのはいいけど、ぜーーーったいに後で別れるからなって思いました。オーギーもなんか問題ありそうな感じしたし(実際作中ではそんなDQNな行動はしてないかったですけどね)ジンジャーってダメンズウォーカーなのかなって思いながら見てました。多分そんな感じですよね

◆ハル

ドクズの元旦那。
色男っぽい顔して浮気しまくりで詐欺しまくりのドクズ。
詐欺については、ジャスミンは本当に知らなかったんですね。浮気についても、あからさまで他の人が全員気づいていても、ジャスミンは気づかなかった。
この盲目って、なんの盲目なのかなって個人的には思います。
ちゃんと考察してないし、よく見ているわけではないので断定できないのですが、ジャスミンはやっぱり心からハルのこと愛してたのかな。だからこそ、恋の盲目で不正も浮気も気づけなかったのか
もしくは、ジャスミンが溺れていたのって、地位とか権力とか、社交界の華としての立場や、成功している事業主としてのハルの肩書きとか幻想だったのかな。
どっちもなのかなぁ
その、ハルの幻想に恋してたからこそ、浮気が発覚した時に密告してしまったのかな。

この密告のせいで自分は没落して一文なしになって、愛する人は獄中で死んで、、、
愛する人が死んだことも、捕まったことも、不正が発覚したことも、全部自分のせい
だけど、ジャスミンも裏切られて、騙されていて、被害者で、密告すること自体は正義寄りの行動に思えるけど
被害者にも思えるし、自業自得にも思える
本当に悪いのは詐欺とか浮気してたハルなのに

◆ラスト

衝撃すぎますよ
ズタボロで明日も、下手したら1時間後の先すら見えない追い詰められた中で、ベンチに座ってまた自分語りして終わり。冒頭の飛行機内での自分語り病みシーンも衝撃だったけど、ラストがこれっていうのは、やってくれましたね監督
ジャネットはこんなに追い詰められても結局逞しく生きていきそうな気もするし、もう本当にどうしようもなくここで果ててしまう気もする。助けてくれる人は、誰もいなくなってしまったから。

でも、心のどこかでは、やっぱり逞しく生き延びそうだなって思うんです。それは、自分の願望なのか、見た人はみんなそう思うのか……

とにかく、酷い映画でした。



【参考】

https://hibino-cinema.com/blue-jasmine/

完結だけど、結構網羅されてる感想

https://shizukubooknavi.hatenablog.com/entry/blue.jasmine.kansou#みどころと感想

あらすじ感想
かつきよ

かつきよ