磔刑

アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロンの磔刑のレビュー・感想・評価

4.1
「幻のパーフェクト・ウルトロン」

劇場で観た時に隣に座っている女性が寝ており、心の中で「そうだね、つまんないから寝るよね」と思うぐらいの評価であったが、改めて見返すと思った以上に良い部分が見えて来て少し驚いた。

前作『アベンジャーズ』ではチーム結成までのキャラクターの行動や物語展開に比重を置いていた。今作ではそれぞれのオリジンより前のキャラクターのバックボーンを掘り下げる事でチームとなった後の目的や意志を明確化している。なので前作以上に個々のキャラクター性が現れており、そこから新たに生まれるキャラクター同士のドラマが見所である。
ハルク/ブルース・バナー(マーク・ラファロ)とブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフ(スカーレット・ヨハンソン)の恋愛劇は最終戦でバナーをハルク化させる事でロマノフがバナーだけではなくハルクとしての一面を肯定する演出に二人の絆の深さに胸を打たれて、ホークアイ/クリント・バートン(ジェレミー・レナー)がスカーレット・ウィッチ(エリザベス・オルセン)にかける言葉はシリーズ屈指の名ゼリフであり、このセリフが生み出されただけでも今作の存在価値があると言っても過言ではない。

戦闘面ではハルク対ハルク・バスターが最高に熱い。個人的には『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』のアイアンマン/トニー・スターク(ロバート・ダウニーJr)対キャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)がmcu屈指のベストバウトだと思っているがそれに次ぐ出来である。シリーズ中最も凶暴となり暴れ狂うハルク。その危機を予見していたスタークが用意していた抑止力が真っ向勝負のぶつかり合い、その緊迫感の中でもスタークの程良いユーモアが光っている。特に一瞬にして建築中のビルを買い取り自分の戦略の一部にする行動はキャラクター性と戦略の合理性が噛み合い、尚且つユーモアを交えた本作の中でも特に優れたシーンの一つだ。
オープニングシークエンスのヒドラとの攻防もアベンジャーズのチームとしての一体感が増した事を連携が取れたアクションで物語り、その後のスタークの悪夢がその後の危機を暗示する事で本編に期待感が持てる上々の出だしだ。

前作のメインヴィランであるロキ(トム・ヒドルストン)は不服だったが、今作でメインヴィランを務めるウルトロン(ジェームズ・スペイダー)は個人的にはmarvelシリーズなら一番好きなヴィランだ。人間対ロボットの構図ゆえ『ターミネーター』の劣化だと言う意見も多々あるが私は『ターミネーター』とは明確に差別化を図れていると思う。
『ターミネーター』のロボットは記号としての人類の敵である役割が強く、それは敵対するターミネーターに意志や信念がない事に現れている。それに対してウルトロンは自分が人間に造られた事に劣等感を感じており、それゆえに優れたロボットではなくロボット(人工知能)を創り出した人間を超える新人類になる事を目的としている。彼がソコヴィアを神の鉄槌になぞらえて地球へと落とし人類を滅亡させ、その結果新人類を統べる神となろうとする動機はキャラクターの行動とも一貫性があり、自分がロボットである事に劣等感を抱いているキャラクター像も斬新だ。
加えて慇懃無礼な態度や妙に人間臭い所、利用する為だとはいえ双子の心を開かせる巧みな話術と懐の深さは理想的なリーダーを演出しており軍団を率いる役割を説得力を持って演出している。クロウ(アンディ・サーキス)との会話の中でスタークへの劣等感を丸出しにする姿もキャラクター性を踏まえた独特の愛嬌がある。
クロスオーバー作品としての付加価値としては今作でワカンダの存在が明確化してるのはmarvelのプランの巧みさを感じる。前作以上に市民目線でアベンジャーズを描く点も自然と『シビル・ウォー』へと繋がる様に演出されており、改めて見返した時に面白さを再発見できるクロスオーバー作品ならではの楽しみ方がてきる様に製作されていると感じる。

と、ここまでが再発見した今作の良き点なのだが改めて見返しても初見で感じたマイナス点が払拭される事はなかった。
まず今作のスタークが創り出した(利用した)人工知能対アベンジャーズという題材が果たしてアベンジャーズ2に相応しかったのかは甚だ疑問だ。ウルトロンの目的やバックボーン、スタークとの因縁、そもそものスタークがウルトロンを作り出した武器商人だった頃の闇を払拭する為の動機。と物語の根幹になる部分がスターク個人的な問題集約されておりアベンジャーズとしての物語である印象は薄い。
そもそもシリーズファンなら後々に来る『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でのサノス(ジョシュ・ブローリン)との対決を期待しているのだからアベンジャーズとしてのナンバリング作品ならサノス側の勢力との対決姿勢を表し、mcuとしての大きな流れをファンに示し思い出させる必要があったと感じる。結果的には『インフィニティ・ウォー』でサノスが初登場する結果となるのだが、出し渋ったおかげでポッと出感は少なくとも感じてしまう所だし、インフィニティ・ガントレットを装着してから地球に来るまでどれだけ時間かかってんねんと、時間かかり過ぎて顔の色薄くなってんじゃん。
演出面だとフラッシュバックが多すぎて物語が停滞する印象が強い。キャラクター性を掘り下げようとする意識は理解できるが長尺作品でストーリーが進行せず、只のイメージ映像になるフラッシュバックを多用するのは観客の意識が散漫になるので別の演出方法にするべきだった。(フラッシュバックに三幕構成のストーリー性を持たせるなら別だが)

で、次に挙げる点が本作最大の欠点でそれはパーフェクト・ウルトロン(勝手に命名)が登場しなかった点だ。先程挙げたウルトロンの良い点に加わる点にヴィランとしての成長がある。
最初はボロボロだった姿から数々のバージョンアップを繰り返し、世界の危機が肥大化してることを暗示している。しかしそれに反してウルトロン自身の腕力ではアベンジャーズに勝てない事は幾つかの戦いで示されている。だがウルトロンが新人類(パーフェクト・ウルトロン化)する事が最終目標だと判明する事で今までのヴィランとしての非力さと彼が成長するタイプのヴィランである事に必然性が生まれ、尚且つパーフェクト化すればアベンジャーズを上回る脅威となり得る点、そしてそれを如何に阻止てきるかが物語の焦点となりストーリーに緊迫感を生んでいる。
ここまでの流れは個人的には完璧に近いと感じているのだが韓国でのチェイスシーンで物語は最悪の方向に傾く。結果から言うと韓国のチェイスシーンは不必要なものだ。さっきも言ったが現状ウルトロン側がアベンジャーズを勝てる様子がないにも関わらず物語の緊張感(世界の危機)を持続できるのはパーフェクト化する事でアベンジャーズを上回る脅威となり、ソコヴィアの投石作戦の確率がより高まる可能性があるからだ。なのでウルトロンは絶対にパーフェクト化しなければならなかった。そうでなければアベンジャーズが負ける姿もウルトロンが優勢になる姿も想像できない結果となり、物語の緊張感を持続できないからだ。
しかし結果はウルトロンのパーフェクト化は韓国でのチェイスで完全に破綻する結果となる。加えて双子には裏切られ、ジャーヴィスがヴィジョン(ポール・ベタニー)となり只でさえ既存のアベンジャーズの戦力に勝てる様子のないウルトロン軍の黒星が濃厚になり最終戦にもつれ込むのだが、プロ野球チーム対小学生の草野球チームぐらいの戦力差のある消化試合以下の戦いを見せられて何が面白いんだとしか言いようがない。(例えるなら『ドラゴンボール』でクリリンが人造人間18号を爆破し、第二形態のセルがベジータとトランクスにボコられてセル編が終わるようなものだ。)
ウルトロンがパーフェクト化しない展開は脚本ミスだと言わざるを得ないし、ジャーヴィスがヴィジョン化するのだって別にあのタイミングじゃなくて良い。パーフェクト化したウルトロンにコテンパンにされたアベンジャーズの切り札としてジャーヴィスがウルトロンの体を乗っ取る展開で十分だった。その方が最後の最後まで緊張感を持続できたのは間違いない。

少なくともウルトロンがパーフェクト化しなかった点は紛れも無いミスだし、ここの減点は計り知れない。只この大きなミスで最初に挙げた良い点が無くなる訳でもないので採点が非常に難しい作品である。個人的には主題は好きなのだが、上記の理由からアベンジャーズの続編ではなく『アイアンマン3』に据えるのが妥当な内容だと感じる。(アイアンマン3は駄作だったしね)
磔刑

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