せーじ

そこのみにて光輝くのせーじのレビュー・感想・評価

そこのみにて光輝く(2013年製作の映画)
4.6
105本目。前々から観たいと思っていたのだけれども、作品そのものや感想などから漂う重さから、二の足を踏んでいた作品。
池脇千鶴さんや綾野剛さんが出演していた他の作品を鑑賞したところから、二人が恋人役として共演しているこの作品を観ることをようやく決意。
想像通り重苦しかったですけど、素晴らしい作品でした。

まず、映像表現が凄まじい。
特別な撮り方をしている訳ではないはずなのに、最初のカットから映像として美しく映画的に語りかける様に撮られていて、あっという間に引き込まれてしまった。美しさとは程遠い、容赦のない貧困と息苦しさが漂う舞台なのに、むしろ登場人物の人としての美しさや醜さが伝わってくるような撮り方をされていて、監督と撮影者の力量がありありと感じさせられた。

また、当然のことながら、役者陣の演技も素晴らしい。
セリフは最小限の言葉しか交わしていないのに、登場人物がどう思っているのかがしみじみと伝わってくるし、濡れ場や暴力描写、人間臭い弱さを見せた描写も、出演した誰もが逃げることなく、真正面から向き合って演じられていたと思う。
寡黙で塞ぎこんでいるが、強い感情を内に秘めている主人公。エロティックだけど、少女のような純粋さも持ち合わせているヒロイン。人懐っこいバカだけど、どこまでも家族想いなヒロインの弟…と、フィクションなのに「あいつら」が確かに実在し、本当に生きているように感じられた。もちろん彼らに立ちはだかる「あいつ」も。
主人公の元上司役の火野正平さんや、ヒロイン姉弟の両親をはじめとする脇を固める方々も、しっかりと作品を支える演技をされていて、とても良かったと思う。

そして何より、主人公とヒロインが邂逅する海のシーンが本当に素晴らしかった。この物語で語られる世界はどこまでも陰惨で暗く汚いのに、海に抱かれ海と共に存在していた彼らの姿は、とても美しく見えた。その世界がどんな絶望にまみれていても、人がひたむきに生きようとする姿は美しいし、時にはそんなところから世にも綺麗で宝物にしたくなるようなものが見えることがある…という本作の主題をキッチリと描き切っていると思う。

重苦しく哀しい物語ですが、出演されている俳優さんたちがお好きな方には、必見な作品だと思います。
大切な人と、ぜひぜひ。
せーじ

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