ラウぺ

ノア 約束の舟のラウぺのレビュー・感想・評価

ノア 約束の舟(2014年製作の映画)
3.7
ノアの箱舟といえば、誰でも知っている旧約聖書の物語ですが、この映画は大洪水から逃れるために箱舟を作って動物を乗せたサバイバル映画だと思って見に行くとあまりの違いに目眩がするはずです。
基本的な話そのものは当然ノアの箱舟の話ですが、これは一人の男が神からの達成困難な指令を強靭な意志をもって達成しようと奮闘する物語で、その過程においておよそ人の命や存在意義など一顧だにしない、一種のサイコパスと化す主人公の姿を描いたものです。
この点が受け入れられるかどうかで、作品の評価は人によって大きく変わってくるでしょう。

大洪水前の世界もどこか地球の景色とは異なる異星のようであり、文明の様子も太古の昔というより、未知の異文明のようでもあります。
人々は発火性のある鉱物や食糧を巡って争いを起こしており、神の使いとして石のトランスフォーマー(笑)が登場します。

そもそもこの世界は神が創ったとはいえ、人間は欠陥製品であり、これをリコールするために人間を消し去ろうとの意思のもとにノアを「お告げ」という形で洗脳するように描かれています。
そこに描かれる神の存在は全知全能の絶対的存在というより、世界の創設者のそれで(映画の中でも神のことをクリエイターと呼んでいる)、「マトリックス」のアーキテクトや、スタートレックDS9の創設者のような一種の支配者であり、その前には人間の存在は単なる世界の構成要素のひとつにすぎないわけです。
神のお告げについてノアが家族に説明するときに「あなたは神に選ばれたのでしょ」という妻に対しノアは「こいつなら使命を最後までやりきれると思ったからだ」と答えます。
ノアがその使命を達成しようとすることで、家族との間に軋轢が生じ、その成り行きが後半大きな命題として描かれていますが、そこに描かれたノアの家族もそれぞれに人としての弱点を抱え、決して「良き人々」の代表というわけではありません。

ノアの箱舟を奪い取ろうと襲ってくる人間にも、神に見捨てられた一種の棄民としてのやるせなさが漂っており、神に抹殺されてしまうことを受け入れず、自らの手で生存をかけて戦うという強い意志が窺えます。
欲望の赴くまま、悪にまみれたとはいえ、人は生活のために必死に地上で生き抜いてきたわけで、ここにきての突然のリコールに対し、必死で抵抗を試みるところは、一定の理解もできるわけです。
この映画はノア伝説の形をとっていますが、やはり基本は人間の業というか、原罪とどう向き合うのか?というところに主題があるものと感じました。
なので、この映画の本当のクライマックスは洪水が起きたあとの箱舟内での出来事にあるのですが、映画的スペクタクルという点で、洪水の後の展開が地味に感じる人もいるでしょうし、「天地創造」などでこれまで描かれてきた聖人ノアのイメージとはまるで異なるノアの狂気?に対して違和感を覚える人もいることでしょう。
しかし、この使い古されたネタで、ここまで人の根源的問題を改めて描くことができた点は大いに評価されるべきところだと思いました。
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