ラウぺ

宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきましたのラウぺのレビュー・感想・評価

4.0
韓国の軍事境界線:MDL(Military Demarcation Line)の前線哨所:GP(Guard Post)のパク・チョヌ兵長は視察にやってきた司令官の車にくっついてきた宝くじを偶然拾う。消灯間際に見たテレビの当選発表で、そのくじが1等6億円に当選したことを知り有頂天になる。ところが監視任務中に本に挟んでいた宝くじが北朝鮮側に飛んで行ってしまう。チョヌ兵長は危険を冒して非武装地帯の中に宝くじを探しに行くが・・・

軍事境界線の南北兵士の交流を巡る物語というとパク・チャヌクの『JSA』が大変印象深い作品でしたが、こちらは気楽に当選くじを巡る南北朝鮮の兵士の騒動を楽しむコメディ。
観たのは『ビヨンド・ユートピア 脱北』の数日前ですが、北の様子のあまりに大きなギャップに軽く眩暈を覚えるレベル。
とはいえ、単なるコメディとはいえ、この作品で描かれる北の様子はさすがに隣接する当事者のことだけに、細部の描写にはリアリティがあります。
北の哨所の雰囲気はいかにもそれらしい感じであり、北の兵士に政治指導員が居るほかに国家保衛省の保衛指導員まで登場する。
政治指導員の上に保衛指導員が居るというのはソ連赤軍の政治指導員とNKVDの関係に相当し、さすがにコメディとはいえ、賞金の配分で山分けを狙う南北朝鮮兵士といえども保衛指導員を巻き込むのは不可能というところにやけにリアリティを感じます。

宝くじの賞金の配分を巡り南北兵士が会合を持つ場所、共同給水区域はJSAと呼ばれているようですが、これは共同警備区域(Joint Security Area)のパロディのようです。
賞金の換金と受け渡しを巡って紛糾した結果、双方の兵士を交換に相手方に送り込むという奇想天外な展開が物語後半のキモになるのですが、それぞれの兵士が先方で意外な功績を挙げるところが面白い。
その後もさまざまな紆余曲折を経て意外な展開に発展するところなど、相変わらず盛りだくさんで大いに楽しむことが出来ます。

双方の兵士が交流を持つことなど現実には限りなく不可能であり、パク・チャヌクの『JSA』もまた、いかにもパク・チャヌクらしい悲劇的顛末(といっても悲劇の顛末は冒頭に描かれる)が描かれていたわけですが、この作品で笑いながら楽しむことが出来る双方の交流は、限りなく不可能な現実のなかでも、映画の中だけでもこのような交流が出来たらという小さな希望、韓国国民の僅かな願望が込められているのだろうと感じるのでした。
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