新潟の映画野郎らりほう

グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札の新潟の映画野郎らりほうのレビュー・感想・評価

4.0
【たかが…映画…】


いったいどこまでが現実でどこまでが映画だったのだろう…

幾度も鏡に鏡写される「虚像」。 窓枠や部屋間開口越し構図多用による「フレーム内に納まる人物」の強調。 テラスから臨む外景や自動車運転シーン背景の明らかな「合成」。 信念・訓練・知略を駆使し昇華されるグレースケリーの「メソッド演技」。 ヒッチコックとの通話シーンに於けるスプリットスクリーンとワイプ処理をはじめ、人物表情接写時のキャメラのブレ及び不焦点。又は流麗なキャメラワークとパニングの殊更な多用が、何度も何度も印象付ける、全ては「撮影された事象=映画」なのだと…。

これは「女優グレースケリーの識られざる素顔に迫った作品」などでは断じて無い。 「陰謀渦巻く一家庭に入った一人の女性が猜疑迷妄の果てに何を見たのか」を描いた“グレースケリー主演”の創作作品-映画-だ。 そう、『レベッカ』や『断崖』の様な…。

彼女はいったい何を見たのだろう…。 ヒッチコック作品に主演しているつもりだったのだろうか。 そこには映画を離れ引退して尚 演じる事-映画-から逃れられぬ女の、皮肉と幸福の入り混じった狂気すら感じる。

高所断崖のワインディングをケリー駆る車が猛スピードで疾駆してゆく ~どんなに飛ばしても運転ミスの恐れはない、なぜならこれは“映画”なのだから~ 。
しかしヒッチコックは言う ~『フレームから外れない様気をつけて』と。

映画の魔法が作用するのはあくまで映画の中だけだ。
しかし現実社会で尚 映画を-女優を-生きようとすればどうなるのか…、それは言わぬが花だろう。


「たかが映画」-アルフレッドヒッチコック




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