晴れない空の降らない雨

ヒックとドラゴン 聖地への冒険の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

3.8
 まず冒頭の闇夜のアクション・シークエンスで1作目をオマージュする。画面の手前と奥で別のアクションが繰り広げられ、それらを極力ワンショットで収めることで見事な臨場感を生み出している。ゴチャゴチャして分かりづらいくらいが丁度いい。というか主人公の武器がめちゃくちゃ中二病でウケる。こういう戦闘シーンは、ディズニー・ピクサーが避けがちなシチュエーションで、ドリームワークスならではと思う。ディズニーも、ルネサンス後期から第2暗黒期にかけてはアクション主体の作品が多かったと思うので(『ムーラン』『アトランティス』『トレプラ』あたり)、その頃の監督らの経験が幾分か生きているのかも。
 ただ、ここを始め、真夜中でのアクションの見せ場が多く、暗すぎて正直ちょっと分かりづらかった。そういう問題はあるものの、夜の場面はいずれも強烈な明暗の対比がドラマティックで、これも1作目を思い出させる。

 次にやはり1作目を思い起こさせる素晴らしい飛翔シーンがあるが、ここではヒックとトゥースではなく、トゥースとライトフューリー(彼女が最後まで名無しであるのは野生の存在であることを強調しているのかもしれない)、そしてヒックとヒロインのランデブーとして描かれている。ドラゴンの聖地はさながら水晶でできた珊瑚礁のような極めて広大な空間であり、そこを色とりどりのドラゴンの幼生から成体までが無数に飛び交う様は圧巻である。というか、ロジャー・ディーキンスがシリーズ通してご意見番だったのか。
 お話には正直首をひねることが何度かあったものの、テーマ自体はまさしく本作だからこそ掘り下げる価値のあるもので、主人公の結論に至るまでのプロセスもしっかり描かれていた。これはもちろん、元々の描写あってのものだが。また、ヴィランとの決着のつけかたも上手い。ここを思うと、やはり本作は1作目を全体的に意識しているのだろう。父親への回想や言及が多かったのも興味深いが、さすがに聖人化しすぎではないか。
 
■キャラクター
 しかし、シリーズの総決算としてかくも完成度の高い作品に、なぜ自分はそこまで心動かされなかったのだろうか。

 少し間を置いて振り返ると、この作品のキャラクターに全く魅力がないことに気づいた。確かに主人公とトゥースのカップルは1作目から濃い描写が重ねられてきたし、本作でその関係性に決着がつくわけだから、感情移入できるように入念に準備されている。しかし他が、人間もドラゴンもきつい。キャラ付けがあっても、個性がない。人格が宿っていない。
 まずドラゴンたちは、ほとんど戦闘でしか出番がないから、そもそも存在感が薄い。本作ではヒロインのドラゴンに長めの出番があるが、両者の友情とかそいつの性格とかに関する描写が全くない。彼女のドラゴンは、本当に無個性である。他のドラゴンにしても、見た目とか必殺技とかでキャラ付けされただけ。
 人間たち、とくに主人公の同世代連中は一層ひどい。ドラゴン以上に魅力がないどころか、不快でさえある。1作目で主人公を際立たせるために、他を全員マヌケにしたツケが回ってきた。1人いりゃ十分なコミックリリーフがなんと4人いる(おまけに全員面白くない!)。そして本シリーズのヒロインは、話の都合上ヒックとトゥースの関係に焦点を当てなければならないため、彼女のドラゴンと同じくらいどうでもいい存在である。彼らに比べると幾分マシな大人のキャラクターにしてもユニークネスは見出せない。ちなみに誰の名前も思い出せない。
 本作のヴィランもトゥースを狙う動機があまりに説得力に欠け、主人公らを追い詰める際も緊迫感がついぞない。あとライトフューリーの使い方それでよかったの?
 
 とまぁせっかくの感動作も自分の琴線にはあと数センチ届かなくて残念だったが、見応えあるシーンに恵まれ、シリーズのまとめ方としても秀でた作品であることは確か。何より冒頭のアクションは傑出している。