カツマ

薄氷の殺人のカツマのレビュー・感想・評価

薄氷の殺人(2014年製作の映画)
4.0
凍てつく空に色のないネオンがあがる。それはパチパチとした音を立てて消えゆく刹那、愛も死も置き去りにするかのように殺伐とした余韻を残す。この映画は殺人事件を描いたサスペンスである。しかし、その温度は外気と同様に低いまま、トボトボと寂寞とした空を映し続ける。謎は謎。恋は恋。

2014年のベルリン映画祭にて最高賞に相当する金熊賞を受賞し、世界中から鮮烈な視線を受けた中国産ノワールサスペンス。同映画祭では主演の中国人俳優リャオ・ファンも男優賞に輝き、2010年代にアジアから世界に飛び出した映画の筆頭格として深く記憶に刻みつけられた作品だ。
しんしんと降り積もる雪のように、この映画は段々と無表情を積み重ね、まるで終わりなき事件のように終わっていった。

〜あらすじ〜

1999年。殺人課の刑事ジャンは妻に捨てられ、ひたすらに事件だけを追うような日々を送っていた。その当時、ジャンは15カ所の石炭工場にそれぞれバラバラ死体のパーツが紛れ込む、という不可解な事件の捜査に当たっており、参考人として容疑者の弟を尋問するも、その時の銃撃戦で同僚は死亡。その際に容疑者の弟も死に、事件は闇の底へと葬られた。
2004年。ジャンは刑事課から工場の警備員へと出向になっていた。だが、5年の時を経て、再び発生したバラバラ殺人に首を突っ込むあまり、ジャンは容疑者の一人である美しい女性ウーと個人的に関係を持とうとする。初めは捜査のつもりで近づいたジャンだが、次第にウーの魅力にのめり込むようになってしまい・・。

〜見どころと感想〜

今作は実はサスペンスとしての意外性は決して高いものではない。どんでん返しやサプライズを期待すると肩透かしを食らう可能性もあり、実は相当にオーソドックスなクライムサスペンスである。それでもこの映画が特異点で居られる理由。それはカットやシーンの淡々としたオシャレさと、少ないセリフで物語を進行する、というヨーロッパ映画のような説明の無さにあると思う。余白を大きく残しておいて連想させる、そこに一本の軸としての殺人事件が横たわっている、という構図である。

影のある幸薄の女性を演じた台湾の女優グイ・ルンメイは、青春映画の金字塔『藍色夏恋』でデビューしたあの彼女である。彼女はその後も順調にキャリアを重ねており、今作を撮ったディアオ・イーナン監督の新作にも出演している。そして主演を務めたリャオ・ファンは数多くの映画に出演してきたベテランで、やさぐれた刑事役にも完璧にフィット。この主人公の魅力の無さを見事に体現している。

ディアオ・イーナン監督の圧倒的なセンス。それは本当にちょっとした所作からも滲み出る、サラリとクールなカメラワーク。この映画は謎を解く映画というよりかは、監督が用意した映像世界の上を謎が泳いでいる、という表現を用いたい。最後の最後までその意味の所在を計りながら、煙に巻かれ続けているような作品だった。

〜あとがき〜

バラバラ殺人、そこに多重的に絡み合う美女。設定はまるでよくあるミステリ小説のようですが、今作は金田一少年の事件簿の一説のような作品ではありません。色彩は抑えられていて、陰影で魅せるカット。見えない部分を連想させるかのような構図。それら全てがハイセンスで、アーティな世界観にズブズブとはまり込んでいくかのような一本です。

終わり方も最高にクール。ダンスシーンも最高で、そこにどんな意味を感じることが正解なのか計りかねます。『真昼の花火』という原題にもニクい趣向を感じることができましたね。
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