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アメリカン・スリープオーバーのwigglingのレビュー・感想・評価

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この少し前に同じデトロイトを舞台にした『ドント・ブリーズ』を観たせいで、あの荒廃感が強烈に印象に残っている状態での鑑賞。

そういえば次作『イット・フォローズ』もデトロイトだったなと思ったら、監督の出身地なんですね。
未来が消え失せ廃墟化していくのを待つだけの街に生まれ育った彼が故郷の街をどう描いたのか。そこに着目するのも一興かと。

複数のお泊まり会が催される晩夏の一夜を描いた青春群像劇。といっても、お泊まり会の習慣がない我々日本人にはイメージしづらい。
新学期が始まる9月を前に、気心の知れたクラスメイトと羽目を外したり、新しい環境に馴染むためにオリエンテーション的に催されるそうで。つまり彼らにとっては大きな節目の行事。
劇中の「今日は人生の終わりの日」という台詞が象徴するように、それは青春期の終わりだったりする。

そんな青春期の思いの丈をぶつける一夜、演じるのはほぼ演技経験のないティーンばかりなんだそう。驚いた。
視線の動きがおそろしく雄弁で、目を見てるとドギマギ感がダイレクトに伝わってくる。たしかにこれは職業俳優にはできない演技かも。

原題を直訳すると『アメリカン・スリープオーバーの神話』なんだけど、神話って何だろうと思った。上級生の台詞「アメリカでは思春期は神話なんだ」「大人になり急いじゃダメだ」がキーワードなのかな。
青春期を終え大人になった者があの頃を想いながら遠い目をする感じ。そう言われれば確かに語り口は大人目線だ。

大人目線で描かれているとなれば、本作が言いたいことも見えてくる。
この街には未来はないけど、そこに育った若者は可能性に満ち溢れている。死にゆく街を蘇らせる力だって秘めているのだと。

そしてその果実のひとつがデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督なんだと思います。アメリカ人の生をこんなにも鮮烈に描くことができる映画作家ってそうそういるもんじゃない。

9月からの彼らは何かにつけ(不可逆的な)選択を迫られる大人の階段を登り始めるのだけど、それはすなわち死に向けて一歩一歩向かっていくことでもあって。
はい、『イット・フォローズ』につながりましたね。あれを単なるホラー映画と思った方は、是非もう一度観てみましょう。ラストシーンの見え方が違ってくるはずです。

惜しむべくは本作が鑑賞困難であること。自分はUPLINK Cloudの期間限定配信で観ましたけど、それももう終わってます。
ソフト化されれば絶対に買うんだけどなぁ。
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