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ラ・ラ・ランドのwigglingのレビュー・感想・評価

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)
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TCX & Dolby Atmosシアターをチョイス。この環境を初めて体験するのにふさわしい作品かと。

前作『セッション』を素直に楽しめなかった自分には、これまた困ってしまう作品だなぁと。
や、めちゃくちゃ楽しいんですよ。現代的なビターな後味も、単なる夢物語に終わらせず観るものの心をえぐる。映画の魔法に満ちた最高のプロダクションだと思います。

なにより凄いと思ったのは、エマ・ストーンの表情力ですよね。表情筋がブリブリと躍動して信じられないような顔を作り出す。
成功のきっかけになる"Audition"を歌うシーンの顔の凄さには度肝を抜かれたな。28歳でこんなことができるのかと。
ずっと以前から彼女のファンだったけど、その理由がやっとわかりました。
これまで観ることが叶わなかったブロードウェイ女優としての彼女を堪能できるのも嬉しいところ。

映画と音楽の最高に幸せな結婚ともいえるミュージカル映画をもちいて、女優のミアとミュージシャンのセブの物語を描いているのが本作のキモだと思います。
ミュージカル映画の世界では夢が現実のように描かれるわけだけど、我々がこうして映画を観ているのもそれと同じことなのではないかと。どちらも目を開けて観る夢だから。
人が生きていくためには夢をみることが必要であるのと同じように、映画は人にとって生きる糧なんだと。

ラストの「有り得たもう一つの現実」は、ふたりが体験した数々の映画的瞬間と同様に、ふたりの身に起きた「現実」なんですよね。
それは映画を観る喜びとも直結するものだと思います。映画を観るという体験は、内容がどんなに荒唐無稽であったとしても、それは紛れも無い現実なのだから。

さて、自分が困ってしまった点は何かというと、デイミアン・チャゼル監督のジャズに対する屈折した感情です。
聞くところによると、監督はジャズドラマーになる夢に挫折したそうで。だから『セッション』は彼の体験がベースになっている。
その傷の痛みが本作からも感じられるんですね。それをノイズと感じてしまった。

それは監督の作家性でもあるわけだけど、であるなら今後もこの監督の作品とは相性が悪いままなんだろうなと残念な気持ちになってしまいます。
あるいはその傷が癒えた後の彼が作る作品には、まるっと飲み込まれてしまうのかもしれません。なんたって若い監督ですからね、転機はいくらでもある。

アカデミー作品賞が夢と消えたエピソードも本作にふさわしいんじゃないかな。本作に関わった人々にとっては、作品賞受賞も「現実」だったはずです。
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