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大和(カリフォルニア)のwigglingのレビュー・感想・評価

大和(カリフォルニア)(2016年製作の映画)
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まず題名、それだけ見ても何の映画なのかわからない。分かりやすいだけで気骨のかけらもない題名ばかりの昨今、異物感たっぷりで素晴らしい。タイトルイメージと題名の字面が見事に補完しあい、この映画が何であるのかが理解できた時のカタルシスも最高。

そして多面性や多層性の描き方がとても豊であること。日本でありながら主権の及ばない米軍基地が幅をきかせる神奈川県大和市という土地、米兵を父に持つ主人公のアイデンディティ分裂、ラップという借り物のアートフォームで自己表現することの居心地の悪さ、等々。
メインキャストの2人の女優が外国人のアイデンディティを持っていることも、本作が描こうとしていることに説得力を与えているようにも感じる。

こういった多数性は、本作が既成の物語から大きく逸脱することにも表れている。
ラッパー志望の少女の物語というと、卓越したラップスキルでライバルを蹴散らしていくという、フリースタイルなんとか的なものが想像されるわけで。しかし本作は、ラップという表現手段の本質である「自分の想いを自分の言葉で世界に表明する」ことに狙いを定め、それを正確に撃ち抜く。

音楽映画の側面もある本作は、音楽面においても多様性が貫かれている。ラップ〜ヒップホップ以外にもサイケデリックロックが大きくフィーチャーされ、バンドが紡ぐノイズミュージックは米軍機が撒き散らす騒音ともシンクロする。
主人公はノイズミュージック(=米軍機の騒音)と一体化し乗り越えることで、はじめて自らの言葉を獲得するのだ。

分かりやすい成功譚に回収されることのないオープンエンドにより、物語はこれから始まるのだという予感を湛えながら幕を閉じる。このマージナルな土地で生き抜くために相応しいマインドはどんなものか、彼女なりの答を力強く謳いあげながら。

蛇足を少々。大和市を含む相模地区は本当にヒップホップが盛んな土地で、SIMI LABをはじめ多くの才能を輩出している場所でもある。なので、ある意味ドキュメンタリー的な楽しみ方もできる作品かと。
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