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毛皮のヴィーナスのericoのネタバレレビュー・内容・結末

毛皮のヴィーナス(2013年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

オーディションにやってきた女優と演出家の男。演じることで二人のパワーバランスは逆転し、舞台と現実との境界線は次第に溶解していく。

劇中のヒロイン・ワンダ(演じる女優と奇しくも同名)に託されるのは、毛皮という獣性を纏った恋の女神ヴィーナス(アフロディテ)のイメージ。演出家・トマは読み合わせの相手として、ワンダに跪く男セヴェリーンを演じることになる。

品も知性も感じられなかった女優の思わぬ名演に、次第にのめり込んでいく演出家。自らが脚色したはずの戯曲の核心に、彼はここで漸く近付き始める。とともに、その自己中心的な欲望が暴かれていくのである。この全てが同時進行のプロセスを通し、サディズムとマゾヒズムの真実に、二人は徐々に肉薄していく。

途中、ワンダとセヴェリーンの演者を交代するが、女優と演出家の力関係は変わること無く、彼女が絶対的な勝利をおさめたところで幕が下りる。サドとマゾの関係性においては、どうしてもサド>マゾのヒエラルキーを考えがちだが、実はどちらも快楽を享受するものであると同時に提供する者でもあるはずだ。が、ただ甘受することだけを求めた演出家は、マゾヒストの資格を得ることも出来ず、女に罰せられたということだろうか。

軽妙とも言えるタッチで描かれながら、すべてがラストに向かって収斂していくこの緊張感。比喩の海を泳ぎながら、男と女の権力のゲームを愉しむという快楽。あぁぁほんとに楽しかった!

#トマの婚約者からしばしば電話がかかってくる着信音はワーグナーの「ワルキューレの騎行」で、ワルキューレとは「戦死者を選ぶ者・戦乙女」。トマはもう観念するしかないねー。

ヒューマントラストシネマ有楽町
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