Ricola

雪夫人絵図のRicolaのレビュー・感想・評価

雪夫人絵図(1950年製作の映画)
3.7
木暮実千代演じる雪夫人の、色香漂う美しさと儚げなか弱さが抜群の存在感を放っていた。


雪のゆったりとした話し方、仕草、特に伏し目がちの表情…。
そんな上品な色気は天性のもののように感じられる。
「女の体には魔物が住んでいるんですよ」
欲望には逆らえないのも、彼女の妖艶さと関係しているようである。

蚊帳ごしのかすれた画面のぼやけた美しさ。それを雪がこちらへくぐり抜けるとやつれた顔が、まるでピントを合わせたかのようにはっきりと見えるようになる。

昔なじみの方哉(上原謙)と雪の間にはずっと壁がある。
それは家の中と外と障子や、同じ室内でも柱が二人の間にある。
または二人の間に何も隔てるものがなくても、互いに線を引いていることはよくわかる。

この作品において水が印象的なモチーフのように用いられているようだった。
まずは浴槽から溢れるお湯が波のように、いったりきたりとキラキラ輝く。
その場面の後に、物語の本筋が語られる。
次に、緊張感や張り詰めていたものが決壊するようなモチーフとしての水。
庭にあるししおどしのようなものから水が一滴水桶へと滴り落ちる。
それからも池の中に反射する景色や湖。わたしたちは水に導かれていく。
この水は、良くも悪くもありのままで優柔不断で流動的な性格の雪を表しているようである。

雪の抗わない性格は、この作品の公開当時にはもう勢力が弱まっていた旧華族そのものを表しているようで、よりいっそう切なさを覚える。

豪華な俳優陣の共演に興奮しつつ、邸宅とそのの周りにある木々や山や湖による映像美に、特にラストは引き込まれた。
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