ハマジン

島田陽子に逢いたいのハマジンのレビュー・感想・評価

島田陽子に逢いたい(2010年製作の映画)
3.5
本当によかった。『いくつになってもやりたい男と女(別題:たそがれ)』を見た時の、しみじみとした余韻を思い出す。撮影現場から逃げ出した島田陽子演ずる「島田陽子」と、偶然タクシーに乗り合わせた余命いくばくもない元役者の男(甲本雅裕が出色の好演)との最期の旅路。いわゆる「余命モノ」なのだが、ドラマの枠組みの中にいくつもの「演じる」レイヤーを複層的に編み込んだ丁寧な演出・脚本によって、死にゆく者の生への執着と、「死にゆく者のそばにいる人間には何ができるのか」という問いを穏やかに提示してみせる。
饅頭の包装フィルムをうまく剝けない島田陽子、失恋に泣きながら啜るラーメン、翌日の朝食に湯呑で飲むビール、旅館の懐石料理のふたを開け、「あっ、お肉です…」と思わずつぶやくささやかな喜び。死へと向かう一時の旅路ゆえに輝き、同時にその執着も増す「生」のディテールの繊細な積み重ねの妙味。伊那谷でのロケーションも、特にロングの画1つ1つがバチっとキマッていて美しかった。
ラスト、画面奥のインタビュー席から手前に向って歩くドレス姿の島田陽子のショットには『告白的女優論』を想起。個人的には、最後の溶暗のタイミングは島田陽子が完全にフレームアウトしてからにしてほしかった気持ちもあるが、そのあたりも作り手の衒いのなさからくる含羞なのだろう。
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