Ricola

ジェニーの肖像のRicolaのレビュー・感想・評価

ジェニーの肖像(1947年製作の映画)
3.8
この作品はファンタジーラブストーリーであり、男性の真摯な姿勢が印象的だが、それ以上にこの物語を虚像か真実かに白黒つけないところに、夢やらロマンを感じる、素敵な作品だった。

「時間とは空間とは何か」
「生とは死とは…」
冒頭から広がる空と太陽の光が差し込む美しい景色を背景に、こういったことが語られる。


日の登る、日が下がるときの雲の隙間から光が差す美しい光景が印象的。
空、特に星が瞬く夜空と光を反射する道がとても幻想的である。
そんな景色の中に一筋の光が見られることもある。
彼女が現れるときによくその光が現れていた気がする。

そしてそれらの景色を収めるロングショットは、まるで点描画のような、フィルターがかかったような荒削りな背景のショットであった。
その演出は、主人公の男が絵描きであること、この物語自体のファンタジー性を主張するようでもある。

ジェニーの美しい肖像画には、それが生み出された経緯とドラマと彼の思いが詰まっており、懐かしさと新しさを同時に感じる不思議な魅力があることが伝わってくる。
また、そこで流れるトロイメライは、映像でせずとも回想のような役割を担っているようだ。
それはまさに「時を超越した魅力」なのである。

彼女の顔にモヤのような、光がかかる。
そこでまた私たちも現実と幻想の間でさまようことになる。

ジョセフ・コットン演じる主人公エベンが、急激に変わりゆくジェニーに対する態度の違いがまたよかった。
しかしそこに常に変わらない根底にあるのが、父性愛のような包容力であることは間違いないだろう。

ジェニーの存在につきまとう、どこまでが現実でどこまでが幻想かということは、この作品のテーマではない。
むしろそれに対して、他者からの干渉によって決める必要はないという寛容性こそが、ここに描かれる美徳なのである。
ラストシーンの、そのように断定できる、夢のある描写がまた素敵だった。
Ricola

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