馬井太郎

アメリカン・スナイパーの馬井太郎のレビュー・感想・評価

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
4.2
街角からひとりの男が出てきたかと思いきや、小型ロケット銃で狙いをさだめた。その瞬間、ビルの壁に鮮血が吹き飛んだ。
スナイパー:クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)の放った一発の弾丸が、男をつらぬいたのである。すると、すぐに、ひとりの少年がやってきて、男が落とした銃を拾い上げようとする。少年には、重そうにみえる。スコープを覗くクリスの顔が曇りはじめた。その銃を、少年は撃とうとするのか。
成り行きでは、彼をも撃ち殺さなければならない。
・・・だが、やはり、少年にとっては、小型とはいえ、ロケット銃はかなり重い。あきらめて、銃を放置、その場を逃げ去って行った。
クリスは、ほっと胸をなでおろし、銃に顔を伏せる。自分にも、同じ年頃の子供がいるのである。
この距離がどのくらいだったか、わからないが、それよりも、放置された銃のことが、わたしは、気にかかった。それは、また、敵の誰かの武器になるかもしれないからである。
昔の戦争と違うのは、彼らは、少年を兵士として育てている、という事実だ。少年兵が、また、少年兵を育成するシステムには、人口を根絶やしにしない限り、その限界に糸目がない。
大勢の女性を拉致し、彼女らに子供を産ませ、凶暴な軍人として育てる。土地や住宅を与え、給料を支払い、強力凶悪の道を進む。誰も、その末を、想像したくないだろう。
クリス・カイルは、実在の人物で、4度戦場に赴き、160人を殺した云う。徐々に蝕まれていく精神状態(PTSD)が、観る者の不安と悲しみをさそう。
これ以上、戦場には行かないことを家族に約束したものの、本国で命を落とす運命は、胸に突き刺さる悲劇である。それを、映像で見せなかったことは、あらためて、英雄伝説となって忘れられない鎮魂歌となるだろう。
アウトローであるはずの「スナイパー」に、「アメリカン」と冠したのも、このあたりにある、と私は思う。

たった一度だけ、クリスの上半身裸が映る。大胸筋、僧帽筋などの盛り上がった筋肉、この映画のために鍛えたのだろう。見事である。
あとひとつ・・・クリスの銃のスコープだ。塗装のはげ具合、どうやったら、あのような「はげ跡」ができるだろうか。
さらに、あとひとつ、銃を構えるクリスの眼とスコープの距離だ。20cmは離れていると思う。大口径レンズだからこそ、可能な使い方なのだろうか。それとも、映画用のスタイルなのか。