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海街diaryのyuienのレビュー・感想・評価

海街diary(2015年製作の映画)
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元日。いつの間にか年が明けてしまっていた夜勤帰りの家路で、ふと今年の初詣は鎌倉にしようと思い立つ。仮眠もそこそこに、着の身着のまま、妹と一時間ほど電車に揺られながら鎌倉に向かった。

私は鎌倉がとても好き。この街の独特の時間の流れや纏う気配があるような気がするから。山と海、古いお寺が散在する風景の中で、心はいつも柔らかくほぐされ、凪の様に穏やかになる。何より都会に住んでいるとつい忘れてしまいそうなさまざまな情緒の残滓が喚起されるんだよね。そうして不思議と、小さい頃に味わった幸福感がなんの前触れもなく蘇り、懐かしく、心地良い寂寥感が込み上げてくる。

今回は、すずたちが住む極楽寺から少し離れた北鎌倉に途中降車した。六国見山を背後にした寺院は、参拝者が疎らで、一人で参拝しに来たお婆ちゃんとゆっくりお話しもできた。ここは一年中鳥がさえずっているんだよ、空気が澄んでいて気持ちいいね。同じく鎌倉が大好きだと言う彼女からたくさんお気に入りのスポットを伺えた。好きな場所にいる時、人は穏やかで優しい気持ちになれるね。
冬の古都、枯れた枝の先、煙を含んだ空気の匂い。街を散策しながら、今この瞬間の充足感を封じ込める為にも、今日こそ映画版を観ようと決め、ようやく心を落ち着かせて観ることができた。

濡れ縁、立派な仏壇、所々タイルの剥がれた浴室、手入れをしないといけない庭。歳を重ねた樹木の匂いが鼻先を掠めそうなほどに古い家屋は、何世代もの人々が残した物語を背負っている。
四季を肌で感じられる窓辺の円卓で、味付けの薄い浅漬けをご飯に乗せてかき込みたい…

私自身三姉妹だからなのか、シスターフッドなお話にはめっぽう弱い。『細雪』、『若草物語』、或いは姉妹ではないけれど、『トラベリングパンツ』も。それぞれ異なる個性があって、衝突もあればふとした瞬間に互いを思い合う絆が見え隠れする、そんな関係性に深い共感と親近感を覚えてしまう。
私にとって、双子の妹は姉妹というよりは、一番の親友だし、まだ小学一年生の末っ子の妹は何よりも守りたい存在である。両親とうまく折り合いをつけられない私にとって、ふたりが最も近しく大切な家族だ。

特に好きな場面がふたつある。

ひとつ目が、しょっちゅう喧嘩する幸と佳乃を、千佳がしれっとした顔で「このふたりはいざという時に結束するんだよ」とすずにこぼすシーン。本当にそうなんだよなあ。それに、たとえどんなに喧嘩して互いを誹り合っても、誰か妹を悪く言おうとしたら、きっと相手に楯突くんだろう。

ふたつ目は、酔っぱらったすずの寝顔を囲い、姉たちが矯めつ眇めつして眺めるシーン。なんだか可笑しみがある光景だが、以前寝ている末っ子の顔を次女とふたりで起こさない様にそっと見ていた幾つものの記憶が思い出して、心がぽわっと温まった。

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春の桜吹雪、夏の庭先で散る線香花火。秋の紅葉、そして冬の枯れ木とみんなで囲む炬燵。移ろう四季の中で変わる風景と変わらぬもの。もしいつか離れて住むことになっても、顔に幾多の皺が刻まれても、そんな変わらぬものがきっと彼女たちの間にあって、私たちの間にあるんだろうなあ。


いただきます ごちそうさま
行ってきます 気をつけてね
ただいま おかえり

素敵な言葉だね。
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