Anima48

シェフ 三ツ星フードトラック始めましたのAnima48のレビュー・感想・評価

4.0
血圧を気にする人の為に塩気を控えてマスタードを多めにホットサンドを作る、レシピからそれるけどまあ良かったかもしれない。小さな時祖母に教えてもらったレシピにはバナナとハムが入っていた。レンジを使い始めの子供にはパンが焦げつかないように火加減の調節するのは難しくて、あの時はちょっと大人のコックさんになった気がしていた

仕入れから下拵えなど手間をかけたフレンチから軽食までいろんな料理が出てきてシェフの調理場での動きが素敵で見飽きない。スタッフがまだ姿を現さない薄明りの調理場で調理を進める真剣な様子。包丁の切れ味、特に肉にスッと刃が入っていく感じがとても綺麗で、自分には豚一匹とか捌いたことが、ないので惚れ惚れする。またあまり家庭では見ない色合いのソースを白い皿の上にさっと伸ばしたり、トレイの上の焼き物をチェックする感じとか素敵だった。そして失敗してもすぐに研究するというプロ意識の高さには尊敬してしまう。キューバサンドの仕込みの際に豚肉をライムなどに入った液に漬け込む様子にワクワクしたり、素敵な女性と良いムード中の手際よくペペロンチーノをさっと作ったりとか、本当に楽しい。(飲んだ後のペペロンチーノって美味しい。ニンニク多めだけどもう2人はそんなのも気にしない間柄なんだろう。)木の柔らかい茶色の食器の上に、赤や緑の野菜を下敷きにお肉を載せて、オレンジソースをかけるって本当に綺麗な色どりだった。トラックのキューバサンドもしっかりした料理本のように美味しそうに撮影されている。ハム2枚とポークを3枚、そしてチーズを2枚とピクルス2枚をパンに乗せてマスタードを塗る、でパンにしっかりバターを塗ってプレスで焼く。レクチャーしながら進むその様子はとてもテンポが良くって、パンとチーズが焦げないように待つ姿が初めてホットサンドを作った朝を思い出させてくれた。

トーストの食べるときのバリバリと言う音、野菜を切る時のリズミカルな音、オーブンから出るベーコンのあばらのチリチリいう音、そういった食感に通じる音がとても耳元でなっている気がして、本来映像では覚えるはずもない歯ざわり噛み応え、下に纏わる油や口の中で広がり消えて聴く風味等が勝手にこちらの口の中で再生されるような気がした。

“人生最高の味だよ”、“これぞ絶品”とか料理を褒める時の言葉が素敵で、自信と喜びに満ちていた。夢中になるということは本当に素敵だと思った、シンプルにおいしい料理をつくって皆に食べてもらうことだけを考えてるんだなって。

ニューオリンズと聞くとガンボとかジャンバラヤとかを思い出すし(・・見たかったな。)テキサスと聞くとタコスやブリトーもあるけれどやっぱりバーベキュー!薪で蒸すんだね(ヒッコリー?)すごくスモーキーさを感じて、日本での炭火に慣れた目には新鮮で、蓋が付いたグリルって憧れる。肉もやっぱり赤身で塊肉だ!ほかの映画でバーベキューソースに拘ってたけれどそれとは違うタイプなのかな?それともあれはスパイスだけでしっかりスモークするスタイルなの?スモークで色づいた中のお肉が本当に美味しそうなピンクだった。刃を当てただけでスッと切れていく、本当に柔らかいんだな、アメリカってお肉の国なんだなって改めて思った。屋外で鉄板で薄い肉と野菜を焼いてタレ付けて食べるスタイルに慣れてしまっている身には本場の凄みを感じる。

シェフのプロ意識、例えば職人・自分の仕事=作品と捉え、料理にしっかりと向き合って技量・熱意をしっかり注ぐこと。そこには客への安易な迎合は許されない。言い換えれば例えばデザイナーであればポートフォリオの拡充向上を目指すという観点。それに対するオーナーの考えは店の評判や売り上げ、顧客への食事全体の満足度や馴染み客への信頼感を保つこと。両者のぶつかり合いが心に残る。あのシーンは業種や職種も超えて働く上での満足度•意味合いを捉えると身につまされる。上から求められたものを忠実に作ることと自分が良いと感じたものを創るという間の板挟みはどの仕事にもある問題、見方が変わればどちら側にも立てる。ともするとオーナー側が冷たく映りがちだけどそこはダスティンホフマン、言い分に説得力と暖かさを出していた。

そして評論家に対して感情をぶちまけるあのシーン、見ていて辛い。自分のすべてを掛けた、愛したものが、たった280文字で評価されてしまう、哀しいよね。そして自分か本当に目指しているもの、作りたいもので勝負しなかったその悔恨もあるのかな。でも評論家もあの文字数に賭けてるんだなって感じる。そして過去には感動してシェフを見出したんだし。お互いへの敬意の大事さというかそういったものを感じる、お互いに素直になれてよかった。まあ、食べてる時くらいはスマホ手放したらどうかな?

ITに馴染んだ息子が単なるお飾りになっていないのが良くって役割がちゃんと与えられていて、そこにはSNSの怖さと良さがバランスよく出ている。無名の筈が意図せず名が売れてしまう感じや若い者に得意な分野を委ねるところが、父に苦手な部分を子が補うというバディスタイルになっていて、お互いを理解しあうロードムービーだった。それ以上に焦げたサンドを題材に職業観,プロ意識というのを継承していくのが良かった。

何かに悩んだり迷ったりした時に定期的に見返す一本になりそうな気がしている。今から台所に行くけれど、今日はさっぱりした和食もいいかもしれない。・・でも明日の朝はホットサンドに決まり、週末はグーグルのストリートビューでマイアミからニューオリンズ、テキサス、LAに巡る旅に出発しようかな、ブリスケットをお供に。
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