せーじ

きみはいい子のせーじのレビュー・感想・評価

きみはいい子(2014年製作の映画)
4.7
138本目。この作品は前々から観よう観ようと思いつつも、その内容からなかなか手が出せなかった作品。意を決して鑑賞。

…泣きました。
腹にズシンとくる、それでいて最後には前を見つめることが出来る、素晴らしい作品でした。

まず、舌を巻いたのは作品全体の構成の巧みさと凄まじさ。
3組の"大人たちと子供たち"が織りなす群像劇が、丁寧に、それでいてち密に計算されたカメラワークと演出で撮られていて、何度も何度も「うわぁうまい…」と声を出してしまった。しかもそれらがゆるい形で自然に、有機的に繋がっていて、それぞれが響き合う構成になっているというのも凄い。
そもそも出演者が大人数で、しかも色んな年齢の子供が登場する作品なのに、映画的にしっかりとコントロールされていて、なのに全く不自然さがないというのは、本当に凄いことだと思う。加えて、後半からクライマックスにかけての不意を突くような、三者三様のそれぞれの展開(迎えに来た人、突然の抱擁、そして時計…)に思わず息をのみ、叫びそうになってしまった。見せ方とカードの切り方が巧すぎる…。

こういう重いテーマを扱う映画作品って、どうしてもウエットな方向に演出が偏りがちだったり、説明的になってしまったり、通り一遍のいい子ちゃんな結論を撫でるだけで終わってしまったりしがちだと思うのだが、この作品は、映画的な節度をキッチリと守りつつ「違う角度から手を差し伸べる」姿を描くことでそれらと寄り添い、前を見つめようとする結論を結ぼうとしていて、そこがとても誠実で素晴らしいと思う。それはともすれば、ものすごく緩い関係性に基づいた無責任な考え方を投げかけてしまうことに繋がるのかもしれないけれども、この作品で扱っている問題は「今この世界にいる人間たちだけで目の前の問題を解決しなければならない」ことだと自分は思うので、とても真っ当な作り方であるように感じた。"宿題"は、今まさに自分の目の前にも出されているということを否が応でも実感させられた作品でした。

そして、演者の皆さんの演技は、もちろん素晴らしかったです。
尾野真千子さんたちが演じられていた母娘、池脇千鶴さんと高橋和也さんが演じられていた一家、おばあちゃんと自閉症の彼、そして高良健吾さんとクラスの子供たち、脇に控える一人一人までどれをとっても完璧でした。
演者の方々の演技があまりに迫真に迫っているので、鑑賞するのが非常にしんどい作品ではありますが、前に一歩踏み出したところで観た人間一人一人に「その先」を預けようとするエンディングの瞬間まで、すべての大人に観て頂きたい、おすすめしたい作品です。
ぜひぜひ。
せーじ

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