ラウぺ

ニュースの真相のラウぺのレビュー・感想・評価

ニュースの真相(2016年製作の映画)
4.0
2004年にブッシュ大統領の軍歴詐称(というより粉飾)疑惑をスクープしたCBSの記者たちを描いた映画。
スクープの有力な証拠として示された、ベトナム戦争の最中の1968年、ブッシュがテキサスの州兵に採用され、部隊内で優遇されていたことを示す文書が偽造されたものではないかとの疑惑が指摘され窮地に陥る、というストーリー。

「大統領の陰謀」とか「スポットライト」とか、この手の映画の多くは専らスクープの暴露自体を主題としているものですが、この映画の主題はブッシュの疑惑の解明にあるのではなく、ガセネタ?を掴まされたジャーナリスト達が次第に追い込まれていくさまを中心に据えています。
最初はスクープが放送されるまでのプロセスをちゃんと描く必要があるため、やや退屈な描写が続きますが、放送後に問題の文書がwordで作成されたものだ、との告発が届いてから防戦に追われる主人公たちの右往左往、調査委員会が設立され報道する側が逆にマスコミの取材攻勢を受ける様子などは緊張感が溢れ、目を離せなくなります。
主人公たちが実際どうなったのか調べればすぐに分かるのですが、映画を楽しむためにはあえて下調べせずに見に行くのが良いと思います。

ジャーナリストたるもの、ガセネタなど掴まされることのないよう、予断を持って対象に挑まず真実の追及に専念すべきであることは論を待たないわけで、そういう意味ではいくら巧妙に用意された偽装文書であったとしても、その真贋についてより慎重に吟味すべきであったろうし、スクープをものにするという焦りもあって慎重で正確な報道を心掛けねばならない、という大原則を疎かにした、という点では主人公たちが窮地に陥るのはいわば自業自得ともいえるものでしょう。
この映画はスクープを放送したプロデューサー、メアリーメイプスの原作を下敷きにしているということもあり、そうした批判的なニュアンスは確かに弱いのですが、踏みつけにされてもなお立ち向かうジャーナリストとしての矜持とは何か?という部分を丁寧に描くことで、いろいろなものを観客に訴えているのだと思いました。
ネタバレを避けつつこの映画の核心を語るのはちょっと難しいのですが、CBSのアンカーマン・ダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)がクライマックスで番組中に視聴者に語る場面は思わず泣いちゃうほど胸を打つものがありました。

日本のマスコミもこれまでの単に事実(と思われるもの)を右から左に報道していれば日々の義務を果たせた時代と違い、安保法制や憲法改正、原発など、ある意味では旗幟を鮮明にしてでもより突っ込んだ報道姿勢が必要なのでは、と思うことも増えてきましたが、マスコミに携わる人達にこそ、この映画を見て欲しい。
記者生命を脅かされたとしても報道に価するものにすべてを掛ける姿勢というのはこういう時代だからこそ必要な要件なのではないかと思います。

こういう微妙で、題材として難しいネタを映画にし、質の高い作品に仕上げてくるアメリカの映画人はやはり層が厚いのか、それともやはり一種の使命感とでもいうものに突き動かされているのかな、と思わずには居られません。
トランプvsクリントンのあまりにレベルの低いテレビ討論などを見ているとアメリカのポピュリズムもここに極まれり、という気がしてきますが、一方でこうした映画を作ってしまうあたり、やはりアメリカも捨てたもんじゃないのかなとも思います。
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