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沈黙ーサイレンスーのabeeのレビュー・感想・評価

沈黙ーサイレンスー(2015年製作の映画)
3.9
【あなたは何故、何も応えてはくれないのか。】

これはとても良い作品ですよ。

イエス・キリストやキリスト教について描いた作品というものは数多ありますが、どれも日本人は感情移入しにくく、世界で賞賛を浴びた‼︎なんてキャッチコピーがついていても蓋を開けてみればいつも日本ではぱっとしない。

この作品はキリスト教を主要な宗教としない国の観客にキリスト教を理解してもらおうとはせず、何故理解してもらえないのか、本当に理解しなくてはいけないことなのかということを通して、価値観の違いを受け入れることの重要性を教えてくれる作品でした。

宗教というものは少なからず国家の形成に影響を与えているため、国民性というものもその影響で成り立っているものです。

私は外大卒なのですが、例えば。
アメリカ人の先生は言うのですね。
「アメリカの学生は大学で一生懸命勉強するのに日本の学生は何故遊んでばかりなのか。アメリカの学生みたいに積極的に授業に参加しろ」と。
それはアメリカは入学試験がそれほど難関ではないけれど卒業が難しく、日本は入学さえしてしまえば卒業はそれほど難しくないという大学入試の仕組みの違いによるもの。単位さえ取れればいいから、授業によっては出席日数ギリギリ取れるように計算してサボったりできる。
また、「volunteer,please.」も。
日本の学生には馴染みのないもの。
先生に指名された生徒が答えたり、名前の順で回答者が回ってきたりというのが日本の学校では一般的なのに対し、欧米は挙手した生徒から回答者を指名する。
なのでvolunteerを募られても日本人は挙手しないのです。
それをアメリカ人は「積極性が無い」と揶揄するのですね。
それは正しいことなのでしょうか?

これはどちらも正しくてどちらも間違っているのです。
生きているものを殺せないという理由で動物を食べない菜食主義者に栄養面の観点から肉を食べろという栄養士さん、どちらの言い分も正しいのと同じ。
それが価値観の違いを受け入れるということ。
だから、キリスト教の普及のためにやってきた異邦人や他国の宗教を信仰する日本人が酷い仕打ちを受けていたとしても、それを弾圧する政府側にそれほど悪意を感じないのです。
私が「そんなにアメリカ人の学生の方が良いんだったら国へ帰れよ。」と思ったのと同じなのです。
一方のピルグリム達の言い分も正しくはあるのです。自分から意見を言えるようになることは、世界で活躍するために必要なスキルだから身につけた方が良いよ、という先生の優しさです。

極端な話に置き換えましたが、要するにそういうことなんです。
国を統治する上でみんなが同じ方向を向いていることは大切なこと。考え方の違いというものは邪魔になる。違う考え方を押し付けないで欲しいと思う気持ちは当たり前。
それでも、人間の命より尊いものが本当にあるのか。自分の命は愚か他人の命を賭してまで守らなければいけないほど大切なものなのか。

だからこそ、窪塚洋介の演じたキチジローの存在というものはこの作品の中ではとても重要です。
途中までは大変にウザいキャラクターですが。
でも、1番大切なことを最初から分かっていたのは彼だけなのです。

ということで、決して何度も観たくなるような作品では無いですし、全体的に単調ですからね。
エンタメ的な要素も一切無いですがメッセージ性が前面に出ていて、観客にそれを分かり易く伝えています。
何故観客にメッセージをストレートに伝えることができるのかというと演者の力量もありますね。
海外の監督が日本人監督を凌ぐ邦画を作ったというのも素晴らしいところ。
作品全体に漂う空気感が良い意味でまるで邦画のようでした。
ハリウッド映画だというのに、まるで日本人のために作られたかのような気持ちにさせられる作品でした。
仏教のことも何も分からないけど、私は結局仏教徒なんだなぁ。

それにしてもアンドリュー・ガーフィールドは作品に恵まれた俳優さんですね。
彼の出演作品はことごとく当たりばかりです。
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