アー君

あやつり糸の世界のアー君のレビュー・感想・評価

あやつり糸の世界(1973年製作の映画)
4.0
今後は余力があればライナー・ヴェルナー・ファスビンダーを始めとしたドイツ映画を鑑賞して紹介をしていきたいと思う。

今回の作品はご指摘があると思うが、たしかにウォシャウスキーの「マトリックス」やノーランの一連の作品である「インセプション」、ディック「トータルリコール」の元ネタといえばその通りかもしれない。

原作はガロイのSF小説「模造世界」(未読)であるが、キューブリックが撮ったシャイニングのように自己流にアレンジはせず、かなり原作には忠実に再現をしたようである。(テレビ映画用の2部構成のドラマ)

しかし、このドラマは上記のようなハリウッド映画ならではの派手さはなく、哲人アリストテレス、プラトン、ゼノンの逆説等の思想をキーワードとして引用するあたりは、お茶の間で観るドラマとしては地味で大衆性が乏しく、SFというジャンルを越えており、私たちが現実世界として抱える存在に対しての疑念をより哲学的に描いている感じがする。

ただ現実において自己の存在が何かの傀儡(かいらい)であったとしても、それほど驚きはなく、所詮はそんなもんだろう。

難点といえば、公開当時(1970年頃)としては鏡やガラスの反射に斬新な美的世界はあったが、セットに若干の古臭さを感じてしまったのと、肝心の人口世界のヴィジュアル表現が弱く、多重構造の映像世界との違いを視覚的にもっと分かりやすく描いて欲しかった。

これはかなり飛躍した論調になってしまうが、サッカーのワールドカップでもドイツは良い意味でも悪い意味でも “堅実” であり、勝利をしても ”面白味” のなさを感じてしまうからである。

総合評価は3.9を四捨五入したぐらいだが、点数をレビューしておきながらも、そんなのはどうでもよい事で、フォロワーの皆様にはニュー・ジャーマン・シネマの代表者であり、夭折したファスビンダーの数多くの名作を見て頂きたい。

[ブルーレイによる購入・視聴]
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