ばーとん

第三世代のばーとんのレビュー・感想・評価

第三世代(1979年製作の映画)
4.7
子供のころ"秘密組織"つくって遊んでたっけ。そんなこと考えながら見てたけど、これはそんな呑気な映画じゃなかった。「資本家がテロリストを作り出し、自分の保護を国家に強いる」と刑事がジョークを言う場面があるが、これは単なる事実であってジョークじゃない。ここに登場する遊び半分のような人々が実際にテロを起こす。

テロリズムがコンピューターシステム構築のための自演という設定が凄い。ファスビンダーは77年の「ドイツの秋」事件を主眼に置いているようだが、まるで現在のGAFA社会の到来までも予見しているかのようだ。テロリズムすら巨大資本に吸収されビジネス化する異常な構造を、すでに見抜いていたのか。

「映画は1秒25回の嘘だ」劇中、良いセリフがいっぱいあって、会話劇としても刺激的だったし、ペール・ラーベンによるクリスチャン・クービッシュ風の音楽もクール。J・リベット映画の常連ビュル・オジエが、女テロリスト役で出演している。彼女には被虐願望があって「男に命令されてわたしは自分で自分の性器を舐める」なんてマゾヒスティックに語る、このシーンは素敵。このセリフは民衆と国家のエロス的、サドマゾ的な、支配/被支配の関係に喩えられている。彼女が大学の講義中に生徒から言われるセリフが素晴らしい。「現在の市民的価値として尊重されるものが、かつてファシズムを招いた」

ラストは誘拐された資本家ルーツの勝利の笑みで終わる。「ドイツの秋」事件をなぞるなら彼はこのあと殺されてしまうのだが。これは絶望的な社会システムについての物語だ。他人事じゃない。これほど知的な"政治映画"を僕は初めてみた。
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