新潟の映画野郎らりほう

キャロルの新潟の映画野郎らりほうのレビュー・感想・評価

キャロル(2015年製作の映画)
5.0
【愛おしき貴女は 射通す彼方に】


雨垂れの雫 靄霞む車窓に 流れゆく街々の光芒が入射し、煌めく無数の光彩が形作る 眩く儚い万華鏡…。それは 涙湛えた瞳に映る乱反射の朧にも似て…。


何故だろう - 受話器から漏れる不通音は冷たい拒絶に聞こえ…、街路響く 靴跫音は心逸(はや)らせる。タイプライトが打ち響かせる打刻音に 胸はざわつき 唯々平静を失う…。
愛を口遊(くちずさ)む流行歌 - ジョー スタッフォード/ No Other Love - が 部屋外/戸外でも鳴り続け止まないのは、他ならぬ心の内の残響であるから……「あなたと…唇を重ねる為に…私は生まれた」と…。


現像液の中を揺らめく幻像(げんぞう)に写るのは 自分自身の迷い/揺らめき。

ソフト及びシャローフォーカス、紗に透けた不明瞭な人影を追って、透過鏡写する硝子のその向こうを 何処までも揺蕩う寂寥な視線。
その数々の“紗”や“朧”は、互いを視認困難にする世間の常識/偏見/揶揄/侮蔑のみならず 自身の戸惑い/迷い/葛藤の“曇り”でもあったろう。


それら総ての“霞み”を越え 見つめた時、きっと…。

射通(いとお)す彼方(かなた)に愛おしい貴女(あなた)を-。




《劇場観賞》