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キングスマンのトルーパーcomのレビュー・感想・評価

キングスマン(2015年製作の映画)
4.5
マシュー・ボーン監督の傑作スパイ映画。
下品で突き抜けた描写に目がいきがちだが、本作最大の魅力はカメラを画面中央に固定したような状態で繰り広げられるアクションシーンをはじめとする独特で唯一無二のカメラワーク/カット割にある📹

最終盤の圧倒的に頭おかしい、けれどアートとも呼べる連続爆発シーンは映画史に残る迷シーン。
上方カメラから映した円形のショットは、古典的な有名カメラワークのバークレーショットを21世紀版にリブートして見せてくれた🤯🤯🤯

見たこともないカメラワークと巧みなカット割、魅力的なキャラクターたち。
2015年、また1つ傑作シリーズが誕生した。


【1】キングスマン=スターウォーズ
脇役のアーノルド教授役でルークスカイウォーカーことマークハミルが出演。
監督のマシューボーンは大のスターウォーズファンということもあり、本作のストーリーはSW第1作EP4を踏襲している。

◼︎キャンベルの神話論
ジョージ・ルーカスはスターウォーズEP4製作時、ジョーゼフ・キャンベルが著書『千の顔を持つ英雄』で分析した神話の典型要素(=英雄の旅)を脚本に取り入れた。

キャンベルの英雄譚は以下の通り。
・英雄はそれまで居た場所を飛び出し旅に「出発」する
・英雄は「メンターの助言(導き)」を受ける
・英雄は「仲間の援助」を受ける
・英雄は「怪物と対決」し「試練」に立ち向かう
・英雄は「対価を獲得」し「帰還」する

スターウォーズEP4で、辺境の惑星タトゥイーンの若者ルーク・スカイウォーカーは故郷を出発し、師オビワンケノービの導きと、ハンソロやレイアら仲間の援助を受けて帝国軍との対決に立ち向かい、デススターを攻略して反乱軍基地へ帰還。レイア姫から対価のメダルを授与された。


<以下、ネタバレありレビュー>


◼︎エグジーの物語はスターウォーズ
この映画はスパイ映画版スターウォーズ。エグジーがルーク同様に英雄となる物語である。

・エグジーはロンドンの貧困街を飛び出しキングスマンの選抜試験へ出発。
・彼はハリーというメンターに導かれ、
・候補生仲間のロキシーや、教官マーリンの援助を受け、怪物ヴァレンタインとの対決/試練に立ち向かう。
・そして英雄エグジーは真のキングスマンとなり、ティルデ王女から対価としてとっておきのご褒美...を獲得し帰還する。

若き主人公の父親を守れなかった過去をもつ2人の師匠オビワンとハリー。
怪物ダース・ベイダーの手で倒れたルークの師オビワン同様、エグジーの師ハリーは怪物ヴァレンタインの凶弾に倒れる。ルーク同様絶叫するエグジー。

普遍的・王道ストーリーと、誰も見たことのない斬新なカメラワーク&下品極まりない突き抜けた描写のギャップ。
この物語はエグジーのスターウォーズ、英雄の旅である。

ちなみに、
射撃訓練中チャーリーが発する『Fire when ready.』(準備出来次第撃て)はターキン総督の決めゼリフの引用。
ヴァレンタインがアーサーに持論を語るシーンでのセリフ『A cull is our only hope.』(間引くことだけが唯一の希望だ)はレイア姫の名セリフ「助けてオビワンケノービあなたが唯一の希望です」のアレンジを悪役に言わせるというオマージュと思われる。


【2】カメラワーク/カット割
◼︎アクションシーン
・『マナーが、人を、作るんだ』のシーン
・ガゼルちゃん無双
・教会のシーン
・最終盤の通路でのバトル
キングスマンの最大の魅力は、カメラを画面中央に固定したような状態で繰り広げられる超絶アクション。圧倒的でこんなの見たことない!

◼︎鮮やかな場面転換
スターウォーズは古典的なワイプで場面を転換したが、キングスマンはシーンの切り替え方がとてもスマートで鮮やかだ。
・室内のオブジェから雪山へシーン切替
・刑事がもたれかかっていた階段横の壁にカメラが戻るとハリーが。
・キングスマン選抜訓練と、悪役の計画という双方の物語が動き出したことを感じさせるSIMカード製造のカット
・ターゲットの写真から本人の顔へ移行する切替
・薬を盛られて昏倒する3人→シャンパンの泡で場面転換

どれも見事で鮮やか!小洒落た芸術的な編集である。


【3】キャラクター/設定
素晴らしい映画はうだうだと説明的セリフでキャラクターや設定を語るような野暮なマネはしない。
どんな性格なのか?どんな能力を持っている人物なのか?どんな設備をもつ組織なのか?
優れた映画は、キャラクターや設定を映像と物語の中で見せる。本作は文句なしにそれができている。

◼︎ハリー
圧倒的な戦闘力と知性をもつキングスマンのハリー。
彼の能力は『マナーが、人を、作るんだ』のアクションシーンで問答無用に映像で紹介される。
そして彼の能力を見て驚きつつも笑みをこぼすエグジー。エグジーのリアクション=観客のリアクションである。

アクションだけでなく知的なセリフ回し/威厳を保ちつつも愛情あふれる雰囲気/上品な立ち居振る舞い
コリン・ファースをキャスティングできた時点でこの作品の成功は約束されていたといえる。

◼︎エグジー
・盗んだ車ではしゃぎながらアクロバティックな逆走運転を見せるエグジー
・アパートを出るやアスレチックよろしく軽やかな身のこなしで義父の手下たちから逃走するエグジー
・選抜訓練にて、死体袋や犬の種類などの知識常識は持たないが、マジックミラーを見破ったりパラシュートのアクシデントでは瞬時に対応を思いつく能力
・キツネを轢けない、犬を撃てない、妹や母に優しいエグジー

学はなく下品だが身体能力と高い判断力、熱い正義感をもつ主人公。
彼のキャラクターはすべて物語の中でアクションと映像で語られ、観客の誰もが彼を大好きになる。
スターウォーズ第1作のマークハミル同様、無名だが一目で誰もが好感を抱く若者タロン・エガートン。素晴らしい俳優を見つけたなと思う。

◼︎ヴァレンタイン
『昔のスパイ映画は悪役がよかった』
歪んだ正義感から、世界の人口を一気に間引いて地球を救おうと大真面目に考えているサイコな怪物ヴァレンタイン。彼の異常性/ハズレっぷりを、
・大富豪なのにヒップホップスタイルのファッション
・大量に人を殺そうとしているのに血を見たくない
・ゴージャスなワゴンからマクドナルド登場
など奇抜な演出で紹介。常識の通じない化け物だということが自然と観客の頭に刷り込まれる。
サミュエルジャクソンお得意の彼にしかできないセリフ回しも秀逸。

◼︎ガゼル
あまりにも魅力的な、怪物の参謀。
元体操選手の彼女が繰り広げる圧倒的アクションシーンの説得力。
義足が凶器という驚異の機能美。
エキゾチックで独特のルックスと、上品に見せかけて狂気がこぼれる演技力。

演じるソフィア・ブテルは新体操のフランス代表選手だったとのこと。
軽やかな身のこなしも納得で絵になる。
最終盤でガラスを突き破って飛び出してくる彼女のあまりのカッコよさに「うはあああ!」と声あげてしまうこと必至。

悪役がどれほど恐ろしい強敵であるかの描写は相対的に見せることも必要だ。それなりに強力なキャラクターを、いわゆる咬ませ犬として敗れさせることでメインヴィランの恐ろしさに説得力が増す。
通常の映画では、中盤で主要キャラの1人が倒されるという描き方をすることが多いが、本作は冒頭5分でそれが訪れる。
たったの1分ほどのあまりにもカッコ良すぎるアクションシーンで主要キャラ、いやへたすると主人公かと思わせるランスロットの登場。
と思わせてからのガゼル/ヴァレンタイン登場。
何が起こるかわからない脚本/圧倒的アクション/恐ろしすぎる悪役。
この山小屋での一連のシークエンスで、観客は誰もが「これはとんでもない映画だぞ...」と引き込まれてしまう。

◼︎マーリン
ハリーがオビワンならマーリンはR2-D2だ。
頑固だが強い信念と愛情があり、驚異的なサポート力で主人公を助けてくれる。
悪役を演じることも多いマーク・ストロングだが、本作のマーリンは愛すべきキャラクターに仕上がっている。

◼︎ロキシー
バーのシーンのメイクと衣装があまりにも可愛すぎるエグジーの訓練仲間。
彼女とエグジーの絆は、言葉ではなくパラシュートのシーンでアクションで語られる。ステキ✨
出番は少なめだが、高所恐怖症の彼女が大仕事を成し遂げる成長もきちんと描かれている。

◼︎キングスマンという組織
キングスマンという組織は、超テクノロジーを有し各所に拠点をもつシークレットサービス。
欠員が出たら、後継者は推薦者から訓練で選出される。
そんな設定は、亡くなったランスロットに乾杯をする儀式のシーンで映像のみによって紹介される。
・メガネのテクノロジーで超技術を印象付け
・遠隔出席者の人数の多さで組織の巨大さを示唆
・これからエグジーらの選抜訓練が実施される流れの紹介
実に見事。

【4】ガジェットと美術
メガネ/傘/腕時計/ライター/刃の出る革靴/万年筆リモコン/テーラー地下の高速地下鉄etc
どれも胸躍るアイテム。

・上質で完璧に仕立てられた英国スーツ
・いかにもロンドン!なキングスマンのタクシー
・ガゼルちゃんの不気味で芸術品のような義足
美しい美術の数々が物語を彩る。

【5】減点ポイント
■下品な描写
本作は下品なテイストが突き抜けています。威風堂々のシーンと教会のシーンは言うまでもなく、それ以外でも
・クズなチンピラの車を盗んでドリフト回転するエグジーたちの「ヒャッハー」なノリ
・ティルデ王女のご褒美
・世界中で殺し合いさせてるSIMカード発動シーンのゴキゲンなBGM
etc
このあたりのノリに嫌悪感を感じる人には大きな大きな減点要素となるし、
逆にゲラゲラ笑えてしまう人には「マジ最高🤟!ってなることでしょう。

■他
・ティルデ王女がイマイチ魅力的でない(2ではキャラクターが掘り下げられたが)。
・エグジーがスーツに身を包みキングスマンになる描写が薄め。
・エンディングにもう少し高揚感が欲しかった。

【スコア】
★4.5で!
魅力的でオンリーワンの傑作スパイ映画。
下品なテイストで好みがわかれる可能性があるのでマイナス0.5で。
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