潮騒ちゃん

君が生きた証の潮騒ちゃんのレビュー・感想・評価

君が生きた証(2014年製作の映画)
4.2
音を鳴らす。声を重ねる。揺れて跳ねてひとつになる。音楽はどうしてこんなにも簡単に人の心を結ぶのだろう。誰かの大事な歌が何も知らないわたしにも届く。頼りなげな歌声に耳は一瞬で捕らわれた。主人公が演奏するのは亡くなった息子が残した音楽だ。一曲、また一曲と再生するたびに激痛が走るそれを、父は自分の声にのせて歌う。演じるビリー・クラダップの静かな変化を見逃せない。海の底のように暗かった瞳に少しずつ光が宿る。「君が生きた証」のために彼は生きている。ああ、どうしようもなく胸を打つ…。一緒にバンドを組むことになるアントン・イェルチンの存在にも救われた。息子と同年代である彼との関係にもう二度と叶わないふれあいを重ねる。アントンのハニカミはやっぱり特別で、映画の内容とは違うところで泣いてしまった。彼らのメロディは琴線を引っ掻く。巧くない。ちょっとダサい。だからこそ好きにならずにはいられない。理屈抜きの楽しさに目一杯包まれる。そんな風にして笑顔も音も心地よく馴染んだ矢先、この映画はガラリと表情を変えた。脳も体も固まるような、誰にとっても残酷でしかない真実。それを知ってしまった今はもう同じようには響かない。それでも、わたしはこの映画で紡がれた音楽をこれからも聞いてしまうと思う。言い訳もない。答えもない。主人公がそうしたように、ただこのまま愛してしまうと思う。
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