潮騒ちゃん

シシリアン・ゴースト・ストーリーの潮騒ちゃんのレビュー・感想・評価

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会いたい。どうしても会いたい。彼は何故、突然消えてしまったのだろう。「シシリアン・ゴースト・ストーリー」のはじまりは小さく芽吹いた初恋だった。同じ教室、斜め少し前に座るジュゼッペ。頬杖をつきながら見つめるルナ。彼の巻き毛や華奢な肩は起きていても見ることのできる夢だった。見つめるほどに募る何か。大好きで欲しくて痛い。ジュゼッペの好きなものを追いかけて気を引くためにツンとして、ルナは全力で恋をしていた。怒ったようにも見える彼女の視線に気がついてジュゼッペも微笑んだ。ルナの短い髪やスカートはいつだって目の中に飛び込んでくる。馬よりもサッカーよりも、男の子みたいに走るルナが好きだった。二人は起きながら夢を見ていた。はにかむように触れ合った唇が、永遠に引き剥がされてしまったのはその後すぐ。嘘のように忽然と、ジュゼッペは姿を消した。13歳の少年の身に起きた事件はどれだけの心をどんな風に殺したのだろう。ジュゼッペが消えた1993年の秋をまるごと黙秘し、葬り、蓋をしたのは誰だろう。それを許さないルナが何もかもを掘り起こす。会いたい。どうしても会いたい。欠片でも亡霊でもいい。少女の叫びは魂を越えてこだましていた。ぼやけた暗闇が広がる画面。目を凝らさなくてもわたしには見える気がした。見たい者だけが見られる夢。ルナとジュゼッペの真っ白い頬が触れ合う。キスではじまりキスで閉じたおとぎ話。二人だけの夜も、新しい朝も二度とこない。けれどどうか、笑顔を捨ててしまわないで。ルナの髪を慰めるように潮風が揺らした。あの子が溶けた海は今日も美しい。
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