潮騒ちゃん

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドの潮騒ちゃんのレビュー・感想・評価

4.8
わたしは60年代のハリウッドを上っ面でしか知らないし、特別な思い入れもないし、なんならきっとこの先も熱心に興味を持つことはないかもしれない。唯一馴染みがあったのはシャロン・テートという名前くらいで、幼い頃に母が聞かせてくれた美しい女優のおぞましい惨劇だけ。なんつー話を子供にしてんだよ…と思わなくもないけれど、この映画との結び目を作って置いてくれた母に今とても感謝している。2時間40分で何本分もの映画を観た。ここだけに存在する未来。ここにしかない結末。笑い、おののき、下品に鼻をすすり、心残りは何一つない。わたしはこれまでもこれからもタランティーノが死ぬほど好きだし、この映画も死ぬほど好きだ。語彙なんか捨ててひたすら好きだと殴り書きたい。馬鹿によりをかけて馬鹿になりそうなくらい面白かった。ブラピとプリオの横並びは90年代を愛する身としてはそれだけで夢のよう。鼻息を堪えるのも一苦労だった。どこを取ってもお待ちかねのシーンしかなく、のんべんだらりと見せかけて背後には死の煙がゆらりと揺れている。気づかぬうちに止まる息。ベタつく掌。タラの娯楽に勝るものナシ!残りの人生で後何回「映画って本当にいいものですね」と、満悦のため息を吐き出せるだろう。次から次へと新規の感動がやってきてはわたしを満たしクセ付け中毒にしてしまう。誰かの作られた人生を四角い画面で眺めるだけがわたしの全てになったとしても、それはそれでとても幸福なことだ。脈々と波打つ血が、粟立つ肌が、跳ね上がる心臓が、わたしの体に在って良かった。映画と共に生きてきて良かった。語りの規模の収集がつかなくなる程、天下一品の映画力に満ちている映画だった。
潮騒ちゃん

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