潮騒ちゃん

夜の浜辺でひとりの潮騒ちゃんのレビュー・感想・評価

夜の浜辺でひとり(2016年製作の映画)
-
ひとりでいられる人が好き。もっと言うならひとりでいられない人は信用できない。内側を隠して立っていられる人が好き。なんでもないって顔をして。「わたしは待たない」と言う彼女の一秒一秒が砂より早く落ちていく。あっという間に溜まり、ひっくり返してはまた落ちる。繰り返し流れるばかりでなんの足しにもなりはしない。待っていないのに動けないのは何故だろう。瀕死の胸を誰かに見せる必要なんてない。顔は動くし体は巡る。こんなにもわたしは生きている。飲んだり食べたり笑ったりするたびに心と体がどんどん離れていく。あの感覚が一番嫌い。ケロリとしたままいつでも飛び込めそうなヨンヒは、どこもかしこも可愛い女だった。笑顔も声も全部全部、甘くて痛かった。自分の分と恋人が捨てた分。一人で二つを持ち歩く彼女にはたぶんはじめから覚悟があった。いつでも放り投げることは出来たろうに、最後まで大事に抱えたヨンヒの腕を擦りたくなる。思わず、といった感じでズームするカメラにあからさまな私情を感じた。そこがすごく好きだった。ヨンヒになれる女優はキム・ミニしかいなかったのだろうし、彼女を撮れる監督も彼しかいなかったんだろうな。失恋した女が髪を切り「絶対キレイになってやる」と鏡の前で頬をペチンと叩くなんてほとんど神話だ。静かに引き連れて横たわり、体から流れ出るのをじっと待つ。わたしが知っている方法はそれだけ。手を伸ばせば海。耳に波音。髪に潮風。浜辺はやっぱりひとりがいい。
潮騒ちゃん

潮騒ちゃん